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長野ニュース

<選択の時>(1) TPP

収穫が終わった田を見つめる金盛さん。TPPによる農業への悪影響を心配する農家は多い=安曇野市で

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 すべての関税の原則撤廃を目指す環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加を前進させるのか否か−。今回の衆院選で大きな争点となりそうな政策課題の一つだ。参加国間で関税がなくなれば、海外への販路拡大を描く製造業には有利に働く。一方、海外の安価な農畜産物が大量に国内へ流入することが予想され、農家には強い不安が広がる。

 精密加工産業の集積地として、かつては「東洋のスイス」と称された諏訪地域。自動車部品を製造する「小松精機工作所」(諏訪市)の小松誠社長(68)は「国内需要だけに頼っていては仕事はなくなる。グローバル化は当たり前で、TPP推進は歓迎すべき話だ」と受け止める。

 小松精機工作所はエンジンに使う燃料噴射装置の部品などを米国や韓国、ブラジルなどへ月に百五十万個輸出する。関税を負担するのは現地の取引先だ。「取引先にしてみれば購入原価は安い方がいい。もし、人件費が安い地域で同じ製品を作られたら不利になる」と、TPPに乗り遅れることを心配する。

 輸出産業はただでさえ歴史的な円高の影響を受け、コスト削減圧力にさらされている。小松社長は「常に技術革新をして、自社製品の強みを維持していく必要がある。競争力があるものを作らないと生き残れない」と先を見据えている。

 長野県のもう一つの顔は、国内有数の農業県ということだ。

 「外国米が安く国内に入ってくれば、私たちは働いても収入がなくなってしまう。多くの人が農家をやめざるを得なくなるだろう」。安曇野市穂高有明の富田地区の農家十九軒でつくる農事組合法人「富田生産組合」組合長の金盛啓展さん(75)は、危機感を募らせる。

 所有する八十ヘクタールの田のうち五十ヘクタールでコメを育てる。年間平均の収穫量は三百トンと、市内では大規模な部類に入る。高価な農機具を複数農家が共有するなど効率化を進めているが、現状でも経営は厳しい。

 田を所有する農家の家族たちだけで農作業をして人件費を浮かし、麦や大豆などに転作して国から支払われる年三千万円の補助金を加え、ようやく利益が出る状況だ。

 食生活の多様化による消費者のコメ離れなどで、コメの出荷価格は、一俵(六十キロ)が二万円あった昭和四十年代〜六十年代の最盛期に比べ、ほぼ半分の一万円程度になった。

 コメに課されている778%の関税がなくなれば、輸入米の価格は下落し、さらなる値下がりは避けられない。たとえ国の所得補償があっても、いつまで続けられるかは分からない。農家の間には補助金頼みの農業への疑問もある。

 「国は農家に損はさせないと言うが、果たしてどうなるのか」。グローバル化の進展という世界経済の大きなうねりを前に、金盛さんの不安は大きい。

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 日本の「明日」を選択する時が迫っている。経済状況が好転しない中、TPPが迫る「新たな開国」や、社会保障制度の持続的安定をうたう消費税増税には賛否両論が渦巻き、東日本大震災を契機としたエネルギー問題や防災対策は、私たちの暮らしと安全に直結する。課題山積の中で十二月四日公示、十六日投開票となる衆院選を前に、当事者たちの生の声に耳を傾ける。