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岐阜ニュース

<論点の現場から>(1) TPP 

飛騨牛の子牛の世話をする女性=飛騨市河合町で

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 消費税増税、原発政策、憲法九条、格差社会、環太平洋連携協定(TPP)…。今回の衆院選の争点は、この国の将来に直結する重要な政治課題ばかりだ。県内の現場を歩き、次の政権の選択次第で暮らしが左右されかねない人々の思いを聞いてみた。

 アイルランド出身の女性歌手エンヤのCDが、山間の牛舎に響いていた。世界的に有名な癒やしの音楽。「牛にも効くんです」。気質が落ち着き、餌をよく食べてくれる。飛騨市河合町の飛騨かわい牧場で、代表理事の森田忍さん(46)が勢いよく人工乳を飲む子牛たちを眺めた。

 飛騨牛の雌二百頭と子牛百頭を飼育し、子牛を別の農家に出荷している。飛騨牛は最近、外国でも人気があるから、子牛の中には将来、輸出されるものがあるかもしれない。品質には自信がある。それでも森田さんは「イエスかノーかと言われればノー」と日本のTPP交渉参加に反対する。

 餌の輸入牧草がこの夏、一キロ三十五円から四十円に値上がりした。「コストで考えたら海外には太刀打ちできん」

 昨年、農協が集めるTPP反対の署名に名を連ねた。ただ、本当にそれで良いのか自信があるわけでもない。「もう少し精査しないと」と冷静に状況を見つめている。

 一方、「外国から安い農産物が入ってきても対抗できる」とみるのは、美濃加茂市の農園経営者(59)だ。野球場ほどの果樹園で富有柿と梨を栽培。輸出は手掛けていないが、国産の果物が海外で高い評価なのを知っている。「TPPに参加した方が日本のために良い部分がある」と期待する。

 「TPP反対」でくくられがちな農業関係者の中にもある、賛否両論。独自の販路で全国にコメを出荷している高山市の「まんま農場」の小林達樹代表(53)は「交渉参加は構わないが、協定の中身が出てみないと分からない」と指摘。情報不足に戸惑う多くの農家の思いを代弁した。

(島将之)

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◆ブランド品はプラス?

 TPPは、加盟国間の関税を原則撤廃する協定。米国やシンガポール、ベトナムなど九カ国が既に交渉を始め、野田首相も交渉参加の意向を表明している。

 関税が撤廃されると輸出に重点を置く日本の製造業には追い風になるが、農業など内需型の産業は外国産の安い製品に押される恐れがある。交渉参加の是非は国内を二分する課題となっている。

 県内では、高い関税で守られているコメや牛肉の苦戦が予想されるが、例外もある。

 たとえば新興国の富裕層に人気のある飛騨牛。海外に販路が開かれた二〇〇八年度は三百万円ほどだった年間輸出額が毎年ほぼ二倍ずつ増え、一一年度に初めて一千万円を超えた。まだ輸出は生産高の0・1%に満たない規模とはいえ、販路は香港、マカオからシンガポールに広がり、今月末からタイでの販売も始まる。

 「ブランド価値がある農産物は国内外問わず強い。TPP参加がプラスに働く可能性もある」と県農産物流通課。ただ、県内農業産出額の四割強を占める野菜や花への影響は限定的とみている。

(斎藤雄介)