文字サイズ

連載

トップ > 2014衆院選 > 連載一覧 > ニュース

<師走困民>(5) 恩恵の“味”期待薄?

 八百年余り前、国の行く末を決める一大決戦があった壇ノ浦が目の前だ。山口県下関市で最大の唐戸商店街。海側の入り口にあるカフェに、香ばしい匂いがじんわり広がる。

 「はい、『アベのMIX(ミックス)』のカフェオレ、おまちど〜」。店主の上田美由紀(54)がサービスの笑顔を添えてカウンターにカップを置いた。

 下関は、「アベノミクス解散」を断行した首相、安倍晋三の選挙区、山口4区の中心都市だ。

 この師走、上田は忙しい仕事の合間を縫い、安倍の選挙事務所の電話作戦に加わっている。二〇〇七年、第一次安倍政権が崩壊した後からの「新参の」ファン。首相の座を降り、地元入りが増えた安倍は、父親の法事に顔を出してくれる「気さくな人」だった。妻の昭恵(52)とは会合で一緒に酒を飲んだこともある。

 安倍が首相に返り咲いて半年たった昨春、ミルクに混ぜるだけでおいしいカフェオレになる濃縮コーヒーを商品化した。「アベのMIX」という名は上田が考えた。「この街の人が信じてもり立てないでどうするの、ってことです」。ラベルには安倍夫妻がほほ笑むイラスト。「日本を元気に!」と文字が躍る。

 この選挙で安倍が最大の争点に掲げ「この道しかない」と訴えるアベノミクス。与野党がその是非をめぐり、舌戦を繰り広げている。投票先はアベノミクスへの評価で決めようという人が多い、はずだが…。

 「お店の売り上げが増えてるわけでもないし、商店街の景気もねぇ。『評価して』って言われても、ちょっと困る」。上田の笑顔が一瞬、曇った。

 飲食店におもちゃ屋、薬局など二百軒が連なる商店街は師走の書き入れ時というのに三割がシャッターを下ろしたまま。自身のカフェも、もうけが出るかどうかぎりぎりで、アベノミクスの恩恵をその身で感じることはない。

 商店街の南隣にある魚市場「唐戸市場」では七日の日曜日、選挙カーが続々とやってきてスピーカーでがなった。

 「アベノミクスで地方を明るくしましょう」「アベノミクスは、格差を広げるだけです」。が、振り向く人はほとんどいない。

 国民の多くが今、恩恵を感じられないから消費税の増税を先送りするのに「この道」で未来は明るいと言われても…。政権党として景気を回復できなかった民主党や、その他の野党が「ほかの道」を語っても説得力を感じられないし…。市場でウニイクラ丼を売っていた女性(29)は、髪留めの手ぬぐいをほどくと、おおむね、そんなふうに解説して、ため息をついた。「学者じゃないから、アベノミクスが良いか悪いかなんて分からない。まあ、どこが勝っても一緒でしょ」

 さて、この選挙で与党が勝利したとしても本当に国民がアベノミクスを信任した結果なのかどうか。

 「だって、安倍さん以外に誰がいるっていうの」。上田に迷いはない。ちなみにアベノミクスの“味”は分からないが、「アベのMIX」をミルクに混ぜるときは少し、慎重になった方がいいようだ。さじ加減を間違えると味が壊れる。

(文中敬称略)

 =終わり

(この連載は長田弘己、佐藤航、中野祐紀が担当しました)