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<師走困民>(4) 生き方 選びたいのに

 首相の安倍晋三がマイク片手に高らかに叫んでいた。「女性の皆さんが活躍する、輝く社会をつくっていきたい」

 衆院選が公示された二日、党首の第一声を伝えるネットの動画。名古屋市の田中明子(43)=仮名=はパート先の職場で休憩中だったのだが、見ていられずにスマートフォンの画面を途中で消した。「何か、うそくさいんですよね。別世界の話だからかなあ」

 田中は今、スーパーのレジ打ちで生計を立てている。時給八百五十円。人手が足りているときは休みになることも多く、月給が十万円に達したらほっとする。三万七千円のアパートの家賃と光熱費、食費を支払うとほとんど残らない。

 仕事仲間には隠しているが、小学生の子どもが二人いる。この春、夫と離婚し、親権も渡した。「一緒に暮らしたいよ、本当は。でも今の収入じゃ、養っていけないもん」。両親はとうに他界し、頼れる親戚もいない。正社員の職を探したが「無理でした。女でこの年齢じゃあ…」。

 安倍政権が誕生してからの二年間で百二十万人ほど増えた非正規労働者。田中もその一人として独り、新しい人生を歩き始めた。

 この秋、安倍政権が目玉政策として打ち出した女性活躍推進法案は従業員三百人超の企業に対し、女性の採用や幹部登用の数値目標を示した計画作成などを義務付けている。ただし、今回の選挙のため、審議不十分で廃案になった。「本当にやる気があるんでしょうか」と田中。

 「そもそも、この法案に出てくる女性って誰のこと言ってるのかなって感じ。もし、選挙に勝ったからって安倍さんが現実を見ないままなら困るわ」

 アベノミクスは成長戦略の中で「女性が輝く日本の実現」をうたっている。少子高齢化で減っていく労働力を補うため女性への期待は大きい。

 だが、既に日本の非正規労働者の七割を女性が占める。今年、世界経済フォーラム(本部・ジュネーブ)が発表した調査報告によると、日本の女性労働者の平均賃金は男性の六割ほど。日本経済の土台はとっくに低賃金で働く女性たちに支えられている。

 田中にはあの法案の中の「女性」、首相が言う「輝く女性」の上に丸かっこが隠れている、と感じる。「(企業のために)輝く女性」じゃないの。

 専業主婦がいる。仕事に生きがいを見いだす女性がいる。働きながら子育てをしたい女性もいるだろう。「いろんな生き方を選べる社会が、女性が輝く社会でしょ。でも、今のままじゃ、生活のため、低賃金に耐える女性ばかりが増えていく気がする」

 こんな現実、誰がどう変えてくれるのか。この選挙では与党からも、野党からも声が聞こえてこない。

 職場の近くに、選挙ポスターの掲示板が立っている。雨に打たれながら、じっくりと眺めてみた。「うーん…」。人生の先行きが見えない今、投票先もまた、見えない。

 (文中敬称略)