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<師走困民>(1) 原発「げ」の字もなく

 まったく、センセイたちは、都合が悪けりゃすぐ黙る…。衆院選が公示された二日夜、心中でこう愚痴ったのは鹿児島県薩摩川内市の福丸のり子(64)。候補者の演説会をはしごしてきた主婦仲間がさっき電話で教えてくれた。「第一声で二人とも原発の『げ』の字も言わなかったのよ」

 師走の選挙、薩摩川内市を含む鹿児島3区には、共産新人の山口陽規(61)、無所属前職の野間健(56)、父の地盤を継いで初出馬した自民新人の宮路拓馬(35)の三人が立つ。主婦仲間が言う二人とは、地元紙に載った立候補予定者への事前アンケートで「原発は必要だ」と答えた野間と宮路。選挙は事実上、両者の一騎打ちと目されている。

 小雨がぱらつく中、薩摩川内市での第一声は仲良く八分少々。ともに白い息と一緒に吐き出したのはアベノミクスの是非など経済問題ばかり。市内にある九州電力川内原発のことにはまったく触れなかった。

 「ろくに議論もせずに、しゃんしゃん(再稼働へ)進んでいくなんて困るわ」と福丸。こたつの上に置きっぱなしだった地元紙の一面を指でぱちんとはじいた。「原発再稼働 自民9割賛成」。事前アンケートの全国の結果を伝える見出しが少し、震えた。

 二年前の前回衆院選で原発依存からの脱却を公約した自民党だが、いざ勝利すると、安く安定したエネルギーを求める経済界に配慮するかのように原発は重要で基幹的な「ベースロード電源」だと転換した。

 福丸の自宅から西へ十キロの川内原発は全国の先頭を切って再稼働の手続きが進む。世論調査などによると、この選挙後も現政権が継続するとの見方が大勢で、手続きは一層、加速するかもしれない。「自民が勝ったとしても再稼働まで認められるわけじゃないのに」。福丸は歯がみする。

 隣で夫の博務(68)が言う。「なんちゅうても、こん街じゃあ九電が一番大きか会社じゃち。家族や親戚の誰かが関係しとお」。地元工務店の技術者として三十年来、川内原発の耐震補強工事などに携わってきた。だから、妻以上に肌身で感じる。この街を、いや日本中を覆う空気…。「暮らしを良くしたかったら、原発のことなんか考えんでいいっちゅう感じじゃろ」

 同じ公示日の夜、川内原発の五キロ圏内にあるグループホーム「わかまつ園」では、元市防災安全課長の園長、浜田時久(64)が、テレビのニュースを静かに見つめていた。原発の再稼働は半ば、あきらめている。ただし「国の言う『大丈夫』を信じ切るのは無理ですねえ」。

 七十代以上のお年寄り二十五人が暮らす同園は昨年十月、政府主催の避難訓練に参加したが、対策本部の連絡ミスで避難用の救急車が一時間遅れ“待ちぼうけ”を食らった。

 長年の「地縁」で、事務所の壁には候補者のポスターが張ってある。見た目は頼もしげなその笑顔を見上げ、浜田はつぶやいた。「誰が選挙に勝ったって、この地で生きる者の命の重さを忘れるんは、許されん」(文中敬称略)

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 センセイを目指す人々が走り回る“師走”。衆院選の投票日まで一週間を切ったが、アベノミクスはともかく、原発や安全保障などの課題で論戦が深まる様子はない。大事なことをあいまいにしたまま、国のかじ取りをすべて託せと言うのなら、有権者は困るよ〜。