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<見極める プロの目>提言その4 新味に飛びつかない

パン店主の小倉喜八郎さん

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 焼きたてのパンは、良しあしがにおいに表れる。「うま味のあるパンは、ほんわり(ほんのり、ふんわり)と甘い。まずいのは、つーんと酸っぱいにおいが鼻につく」。素人にはわずかな差だが、愛知県幸田町の行列のできるパン店の店主、小倉喜八郎さん(58)にははっきり分かる。

 店の売りは果物をタネに育てる自家製の天然酵母だが、それにはこつがある。「旬の果物でしか元気に育たないんです」。おいしいパン作りには旬を見極めるプロの目が欠かせない。

 今の季節ならブドウや、リンゴ。産地や生産者にこだわるのはもちろん、畑に出かけ、自ら果実をつみ取ることもある。たとえ同じ木でも大きさや形、色など実によって本当の旬は微妙に違うからだ。

 そんな小倉さんだが、今回の選挙で安倍晋三首相が是非を問う経済政策アベノミクスについて、もの申したいことがあるという。日本にない木の実類などの輸入食材が値上がりしたことへの不満−もあるが、それだけではない。

 「三本の矢とか目新しいことを言っても、結局、従来の政策の繰り返しじゃないんですか」

 なるほど、アベノミクスは、小泉純一郎元首相の最大の経済ブレーンだった竹中平蔵氏がそもそもの仕掛け人とされる。元首相の経済政策とアベノミクスはともに新自由主義、つまり競争を奨励し、結果として強者を利するのが本質だ、との指摘もある。

 同じく安倍首相肝いりの地方創生や女性の活躍推進も聞き慣れた感じだし、かといって野党の政策も過去の焼き直しがほとんどのように思える。「政治家の主張って新しいことに見せ掛けようとするけれど、成長促進剤で育てた酵母で作ったパンみたいだ」と小倉さん。どれも、つーんと酸っぱい。

水産卸の神谷友成さん

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 そもそも新しさと旬は必ずしも一致しない−。名古屋市の水産会社の販売促進部長、神谷友成さん(57)はそう指摘する。名古屋市中央卸売市場(熱田区)の競り人を二十年余り続けてきた魚の旬を見極めるプロだ。

 神谷さんは消費者向けの「お魚セミナー」で二種類の刺し身を試食してもらうことがある。たとえばカンパチ。見た目は同じだが、一つは直前、もう一つは、さばいてから丸一日たったもの。大抵、半分くらい後者をおいしいと選ぶそうだ。確かにコリコリした新鮮な食感も悪くないが、少し寝かせた方がうま味は増す。しかし、店頭の客はとかく「新鮮さ」ばかりを求めがちだという。

 「○○改革」や「××改正」というだけで良い響きに感じることもある。が、よく考えれば、看板の掛け替えや、議論し、熟成させる時間をはぶこうとしているだけかもしれない。

 「新鮮そうだからと何でも飛びつかない方が良い魚が見つかるものです」。魚は「政策」、もしくは「日本の未来」と読み替えても良さそうだ。

 <おぐら・きはちろう>大阪市出身。愛知県内の工業高校教諭を16年間、務めた後、パン職人に転職。現在、県内に5店舗を展開する。

 <かみや・ともなり>愛知県鳴海町(現名古屋市緑区)生まれ。市中央卸売市場の競り人を務めた経験を生かし、料理セミナーや新聞のコラム連載も手掛ける。