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<見極める プロの目>提言その3 “箱書き”にまどわされるな

日本骨董学院長・細矢隆男さん

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 たとえば、古びて風合いの良い木箱があるとする。「箱書きを見てください。あの○○(著名な茶人)が書いてるんですよ」。中身を見る前にえびす顔でそんなことを言われたら、眉に唾した方がいい。

 「まがい物を売りつけようっていう業者は、じっくり中身を見てもらいたくない。やたら箱書きや鑑定書を褒めることが多いんです」。そう語るのは偽物を見極めるプロ、「日本骨董(こっとう)学院」(東京都中野区)学院長の細矢隆男さん(67)だ。骨董品収集歴が半世紀を超え、古美術関係者や愛好家に目利きのすべを指南している。

 これまで、偽物を売り込むための手の込んだ手口を幾度も目の当たりにしてきた。

 十数年前のことだ。ある高齢の男性コレクターが業者から二億円近くで買い込んだ大量の中国陶磁器を鑑定したところ、ほとんどが偽物で、業者は既に行方をくらましていた。男性は、業者が見せた「中国の権威ある博物館の編集」という立派な装丁の図録にそれらが載っていたため、すっかり信用してしまった。実は図録は業者のお手製だったのだが…。

 これほど悪質ではないが、オークション会場に業者がサクラを仕込み、値をつり上げることもある。

 細矢さんは「あくまで一部」と強調するが、世の中にはまがいものや、粉飾した品を売り込もうという人間が確かにいる。いわく、骨董業者にもいるし「政治家にもいますよねぇ」。

 「男、○○(名前)必ずやってみせます」「若さで改革を」「女性の感性に…」など大声で自らの特徴を繰り返すだけの候補者は「いかにも物を売りつけてやろうという感じがしてちょっと…」と細矢さん。所属政党の主張をそのまま口にするだけの候補者は「党のお墨付きという鑑定書を持っているとでもいいたいんでしょうか」。演説会に動員され、必要以上に盛り上げる支援者はさながら「サクラ」のよう。

 近ごろの「ワンイシュー(単一争点)」選挙も細矢さんには気がかりだ。

 二〇〇五年の衆院選で「郵政改革」の是非を問い、自民党を圧勝させた小泉純一郎元首相。〇九年は民主党が「政権交代か否か」と迫った。今回の選挙でも安倍晋三首相は「アベノミクス解散」と命名し「アベノミクスを前に進めるか、それとも止めてしまうのか」と訴えている。

 無論、日本のトップ政治家が国民をだまそうとしているとは思わない。ただ「本当に見なければならないのは中身。箱書きは大して重要じゃないのに」と不安にもなる。

 選挙で“買いたい”候補者が決まったら、その人が何を訴えていたか、振り返ってみてはどうだろう。すぐに思い出せなかったら、箱書きに惑わされ、中身を吟味していないのかもしれない。

 細矢さんは骨董品を購入するとき、本当に欲しいのか買う直前まで考える。「すぐに飛びつかない」。それが「プロ」だという。

 <ほそや・たかお> 1947年東京都中野区生まれ。高校3年で刀剣鑑定の勉強を始め、早稲田大に進学後から絵画や陶磁器などの古美術全般の収集と研究に取り組む。大卒後は教育関係の出版社に就職。役員を務めるかたわら、露天商や古美術店を営む。96年に「日本骨董学院」を設立し、古美術商の志望者や愛好家らを対象に骨董の目利きや知識を教えている。