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<見極める プロの目>提言その2 全体をとらえよう

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◆元似顔絵捜査官・坂本啓一さん

 はっきりか、ぼんやりか。実はそれが問題だ。

 元滋賀県警鑑識課員で、三十年以上、似顔絵捜査に携わり、犯人像を見極めてきた坂本啓一さん(61)は言う。「あいまいさの中に真実があるんです」

 ときに犯人逮捕に直結する似顔絵。はっきりしている方が良いように思えるのだが、坂本さんは「百パーセント似てなくていい」と断言する。

 坂本さんが目撃者から聞き出す際、重要視するのは「キツネ顔…」といった、全体のイメージ。もちろん、顔のパーツごとの特徴も尋ねるが、一瞬しか見ていないような犯人の目や鼻の形まで詳細に記憶するのは難しい。「キツネ顔なのに垂れ目」のような矛盾も出てくる。その場合、大抵は最初に感じた印象が“実像”に近いそうだ。

 対照的にモンタージュ写真は目撃者が選んだ目や鼻などパーツから全体をつくる。パーツの形は似ているし、はっきりはしているのだが、坂本さんによると元のイメージとは違う顔が出来上がることもあるという。「何となくあの人に似ている」と思う人が多いほど、寄せられる情報が増え、犯人逮捕につながりやすいのだ。

 限られた情報で実像を知ろうとする、という点なら選挙も似ている。ただし、今回は似顔絵よりも難しいかもしれない。「解散が決まってから投票までの期間が短いし、争点も分かりにくい。判断に困りますよね」と坂本さん。

 実は、かつて国政選挙の候補者に頼まれ、選挙用ポスターの作成をアドバイスしたこともある。具体的な手法は省くが、「優しそう」とか「まじめそう」な本人写真を「つくる」のは簡単らしい。「少なくともポスターの見た目で選ぶのはお勧めしません」と苦笑い。

 もちろん、各党の公約や、候補者の主張はしっかり聞くべきだろう。安倍晋三首相が争点に挙げる経済政策アベノミクスや、消費税増税の是非について、雇用統計などはっきりした各種の数字を点検してみるのもお勧めだ。

 だが、それでもどうしても投票先が決められず、棄権するぐらいなら、イメージで選ぶのもありかもしれない。前回の衆院選から自分や、親しい人たちの暮らしが良くなったかどうか。安全・安心な社会の実現へ、このまま進んでいっていいのかどうか。自らに尋ねてみたら、最初に感じた答えは何だろうか。

 ちなみに坂本さんにはこんな経験もある。現役の鑑識課員だったころ、ある事件で逮捕された男の証言で共犯者の似顔絵を描いた。話を聞くうち、様子が変だと思った坂本さんはあえて証言とは逆のイメージで描き進めたという。男は出来上がりに怒ったが、結局、その絵が共犯者に似ており、逮捕につながった。

 証言者はわざと間違ったり、うそをつくこともある。ひょっとして政治家も…。「何でもうのみにしていては実像は分からない」(坂本さん)のは確かなようだ。

 <さかもと・けいいち> 1953年、熊本県菊池市生まれ。日本体育大を卒業後、地元の県立高校で講師を務め、80年に滋賀県警へ。鑑識課で似顔絵捜査などを担当した。6年後に県警を退職後、捜査絵画研究所を設立。警察への捜査協力や顔認証システムについての研究を続けている。「犯罪と人相」(DHC)、「似顔絵捜査官の事件簿」(中経出版)など著書多数。