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長野ニュース

<岐路の現場から>(下) エネルギー政策

 二十四時間、三百六十五日、空調が休むことなくフル稼働している場所がある。発育状況に応じた温度や湿度の管理が品質に直結するキノコの生産現場だ。

 須坂市内に二つの農場を抱える創業三十年の「キノコ村」の荒井将尋社長は今年、電気代の値上げに頭を悩ませている。

 年間三百トン以上のキノコを生産し、希少な品種も手掛ける。エノキの場合、農場内は空調により常に六度前後に保っている。空調代は人件費、原材料費に次ぐ重い経費で、年間の電気料金は二千万円を超える。

 中部電力は四月、企業向け電気料金を値上げした。原発の稼働停止により火力発電にシフトし、その燃料費が高騰したためだ。中電の担当者から二百万円近い負担増を電話で告げられた荒井社長は、一気に暗い気持ちになった。「交渉の余地はないですからね」とため息が漏れる。

 思いは常に揺れている。「電力がないとやっていけない。少しでも電気代が安くなれば」と考える一方で、「原発の恩恵をずっと受けて稼がせてもらってきた。利益だけのために再稼働を求めるなんてできない。自助努力で何とかしないといけませんね」。電気代の高騰に耐えて、品質の良いキノコ作りに年末返上で励んでいく。

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 松本市四賀地区の山間に建つ築三十年の民家から笑い声が聞こえてくる。原発事故で福島県から避難してきた小学六年〜中学二年までの子どもたち八人が共同生活を送る寮だ。

 “松本のお父さん”として寮を運営するNPO法人の植木宏さん(44)は「同じ失敗を繰り返さないためにも、原発に頼らない電力供給の充実に力を入れてほしい」と願っている。

 安倍政権は、エネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」として活用する方針を明記した。民主党政権の脱原発路線を見直し、原発再稼働にかじを切ろうとしている。

 この状況に、寮に中学二年の長女を預ける福島県川俣町の母親(44)は「また事故を起こしたいのか」と怒りに震えている。

 遠く離れた信州で暮らす長女と電話で話すと故郷の友達の様子を頻繁に聞かれる。「元気にしてる? また会いたいな」−。娘の心情を思いやる。

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 市民から資金を集め、公共施設や一般家庭の屋根に太陽光パネルを設置している「おひさま進歩エネルギー」(飯田市)は、再生可能エネルギーの市民ファンドの先駆けだ。原亮弘社長は「原発は事故、火力は地球温暖化、と社会的なコストが大きい。日本が頼れるのは自然エネルギーしかない」と考えている。

 民主党政権は再生可能エネルギーの普及を目指して、太陽光や風力で発電した電気を国が決めた価格で電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度」を二〇一二年に導入した。しかし、電気料金に上乗せされる費用がばく大になるなど制度の不備が浮き彫りになり、抜本的な見直しが十月から始まった。

 原社長は「価格と申請のあり方に見直しは必要」との立場だ。だが、買い取り価格が下がれば再生エネ普及の動きは鈍り、原発や火力への回帰が鮮明になりかねない。

 「制度見直しで太陽光発電の普及が鈍化するのは確実。それが一番の問題だ」と憂慮している。国の方針はあいまいで、先行きは見通せぬままだ。