文字サイズ

長野ニュース

<岐路の現場から>(上) アベノミクス 

 長野市の「ながの東急百貨店」別館四階フロアの一角に、高級腕時計ブランドのロレックスとカルティエ、オメガのショップが軒を連ねる。ちょうど一年前、ショーケース前は多くの人でにぎわっていた。

 「一カ月でロレックスが四十本。単価八十万円前後の商品が、どんどん売れましたね」。フロアの梅木伸二統括マネジャーは昨年末の景況をこう振り返る。

 二〇一二年冬、政権の座に返り咲いた安倍晋三首相は、金融緩和と財政出動、成長戦略の「三本の矢」によって経済成長を目指すと宣言。市場は敏感に反応し、九千円前後だった日経平均株価は昨年末時点で一万六千円台まで回復した。明るい兆しに、日本中がにわかに盛り上がった。

 同フロアにある宝飾店ではエメラルドやサファイアといった百万円を超える宝飾品が飛ぶように売れた。「株でもうけた」と語る富裕層もおり、前年比で売上高が150%増の月もあったほどだ。

      ◇

 木曽郡の山あいに事務所を構える土木建設業の男性(59)は最近、ほっとひと息つける余裕を感じている。道路整備や治山事業の受注が順調で、昨年は新たに社員四、五人を雇用した。

 「コンクリートから人へ」がスローガンだった民主政権から一転、安倍政権は一三年度当初予算で、前年度比15%増の五兆二千八百億円を公共事業に充てた。「四年ほど前は工事の受注額がピーク時の三分の一でひどすぎた。ようやくピークの半分くらいまで回復した」と男性は話す。

 だが、楽観的に構えていない。いつ公共事業が打ち切られるか先行きは見えないからだ。「一過性では困ってしまう」。不安は解消されていない。

      ◇

 「この二年で変わったのは『景気が良くなりそうだ』という雰囲気だけじゃないか」。海外輸出を展開する飯田市の釣りざお製造会社「天龍」の江頭龍男営業部長(59)は、時代の空気をこう感じている。

 国内の釣り人口はピークだった一九九八年の二千二十万人から八百万人まで落ち込んだ。「景気が良くならないとレジャーにお金を使わない。釣り人口が減り続けているのは景気が回復していないからだとも言える」と肩を落とす。

 円安は進んだが、輸出の取引は円建てのためメリットはない。部品の一部を輸入しており、負担は増した。輸出入担当の男性社員(60)は「アベノミクス効果が業績に表れたことはない」と断言する。

      ◇

 高級品の消費が伸びたながの東急百貨店。四月に消費税が8%に引き上げられると突然売り上げが落ち込み、“好景気”の正体が見えた。前年比20%減の月もあり、担当者は「結局はとんとん。駆け込み需要の側面が大きかった」。

 賃金が上がった大企業が多くある東京都内でミニバブルも起きたと聞くが、長野は違う。「アベノミクスの恩恵は地方に届いていませんよ」。客足の回復はまだ実感できていない。

 衆院が解散した二十一日、十二月二日公示、十四日投開票の選挙日程が決まった。二年前と同じ時期に、再び選択の時を迎える。

 釣りざお製造会社の江頭部長は、これまで深く考えずに投票してきたが、今回は街頭演説に足を運ぼうと考えている。「各候補の景気対策をしっかりと聞いて、見極めたい」

    ◇   ◇

 安倍政権発足から二年。突然の衆院解散で有権者は再び岐路に立たされている。この二年間で何が変わり、何がもたらされたのか。現場を歩いて検証する。