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岐阜ニュース

<「この道」はどこへ>(5) 原発再稼働「想定外」はあり得ませんか?

 師走の寒風に耐えるように、レタスは淡い緑の葉を震わせている。大垣市加賀野の家庭菜園。小さな植物のたくましさに、同市外渕、主婦進藤明美さん(38)は静かにうなずいた。

 三十平方メートルの畑を借りたのは昨春のこと。あの“フクシマ”がなかったら始めなかった。

 派遣社員で働く日系ブラジル三世の夫(42)と長男(7つ)、次男(2つ)の四人暮らし。より良い働き口を求め、全国を転々とし、四年前から大垣市で暮らし始めた。新潟、福島。原発の街でも暮らしたが、何の不安も感じなかったのは「危険だなんて考えたこともなかったから」。何より目の前の暮らしに懸命だった。

 けれども、それが三年前の三月十一日に一変した。白煙を上げて爆発した福島第一原発の映像が流れるたび、不安が募った。

 「もう日本に住めないかも」。思い切ってブラジルへの移住を夫に持ち掛けると「もう少し様子を見よう」と諭された。いつでも出国できるよう、当時四歳の長男のパスポートだけは取っておいた。

 何より気掛かりなのは日々の食事。おなかに次男が宿っていた。「放射能に汚染されないか」。スーパーでは福島から離れた産地の食材を探し、農薬が気になって敬遠がちだった外国産の野菜にも手を伸ばした。

 夫の友人から家庭菜園の存在を教えてもらい、飛び付いた。ネットで調べ、見よう見まねで野菜を育てる。ナメクジに食べられたり、畑の水はけが悪くて根腐れを起こしたり。野菜に付いた虫を怖がっていた子どもたちも次第に慣れ、タマネギやオクラなど、自宅で使う野菜の半分以上をまかなえるようになった。

 取り戻した日常。けれども、ネットで目にしたニュースが、再び進藤さんの心を揺さぶった。原子力規制委員会が九月、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を事実上、認める判断をしたという。

 思えば、二年前の衆院選。自民党は原子力に依存しない社会を訴えた。それなのに。「また事故が起きるのかな。今は止まっている原発も動きだすのかも」。大垣市の北西七十キロには敦賀、美浜両原発だってある。「想定外」はあり得るのだ。

 「何かあったら、うちも汚染されるかもしれない」。十五年前に夫と出会ってから八度目の引っ越しの予感。この国で安住の地を探すのか、それとも夫の祖国を目指すのか。

 (加藤拓)

◆この2年 明確に再稼働へかじ

 2年前の衆院選で「原子力に依存しない経済・社会の確立」を公約した自民だが、安倍晋三首相は就任直後から原発再稼働に前向きな姿勢を強めてきた。就任早々に福島第一原発を視察すると、同行の記者団に、民主党政権時代に打ち出された「2030年代に原発ゼロ」の方針について「地に足がついていない希望」と発言。13年1月の国会答弁では原発ゼロ方針の見直しを早くも打ち出した。

 その後示した成長戦略では、原発の「活用」を掲げ、再稼働を「政府一丸となって最大限取り組む」と明記。トルコや中東、インドなどで原発のトップセールスも展開した。

 さらに、4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と表記。原子力規制委員会が新たに定めた安全基準を「世界で最も厳しい水準」として、水準を満たした原発の速やかな再稼働を進める姿勢を鮮明にした。

 これを受け、規制委は9月、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)について新基準に適合していると判断。再稼働に事実上のゴーサインを出した。

◆票ナビから 「減らしても維持」と「ゼロ」派に分かれる

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 県内の候補者らに重要政策について尋ねた本紙の「中日投票ナビゲーション」(票ナビ)では、2030年代に向け、原発と再生可能エネルギー(再生エネ)との望ましい関係について尋ねた。

 A(原発をもっと増やす)と回答したのはゼロ。B(現在ある原発を維持)は自民前職棚橋泰文さん1人で、理由は「原発は重要なベースロード電源だから」。C(原発減らし、再生エネ増やす)は7人、D(原発ゼロ、再生エネ増やす)は、共産と民主元職阿知波吉信さんの6人。阿知波さんは「電力の安定供給を実現する中で、原発ゼロに向けた計画を策定、実施すべきだ」と述べた。