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岐阜ニュース

<「この道」はどこへ>(3)攻めの農業 山あいに陽は差しますか?

 師走に入って寒々とした田んぼが、いつにもまして寂しく感じるのは気のせいだろうか。長年見慣れた棚田の風景を眺めながら、独りごちた。「ここで稲作ができるのも、あと何年だろうか」

 本巣市外山の臼井孝俶さん(77)はこの地でコメを作り続ける農家の四代目。山あいに点在する計百アールの土地でコシヒカリを育てる。今年も四千八百キロのコメが収穫できた。「きれいな谷水と山あい特有の寒暖差で、ぷっくりと膨れたコメができるんだ」。黄金色に染まった田んぼを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。

 けれども、コメを売ってももうからない。昨年は二十万円の赤字が出た。「このままじゃ年金で埋め合わせするようなもの」。消費者の米離れ。ここ数年、六十キロ(一俵)あたり一万六千円程度で踏みとどまっていた米価は、ついに採算ラインの一万五千円を割り込んだ。

 効率を高めるために集約を図ろうにも、隣の田んぼとの段差が一メートルほどある棚田ではかなわない。「うちはまだ農作業用の機械が入る分だけ恵まれている」。耕作放棄地が目立ち始めた地区一帯を、獣害対策の電柵が覆う。

 二年前の衆院選。環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加をめぐって、自民党は公約で「聖域なき関税撤廃」を前提とした参加に反対し、安倍政権は誕生した。だがその三カ月後、公約はほごにされた。

 「アベノミクスかなんだか知らないが、山あいの集落は消えてしまってもよいということなのか」。小規模農家の保護を進めた民主党政権下で、減反に協力した農家に十アールあたり一万五千円が支払われた交付金も、半額に減った。

 会社勤めの長男に苦労はかけられない。「先祖から受け継がれた土地だから。守れるのは自分しかいない」。不安を振り切るように、田んぼをあとにした。

 (磯部旭弘)

◆この2年 保護から自立へ転換

 安倍政権は2013年12月、18年をめどに、生産調整(減反)の廃止を決定した。ほぼ半世紀ぶりとなる政策転換は、環太平洋連携協定(TPP)の参加を見据え、農家の保護から、自立を促して競争力強化につなげる「攻めの農業」にかじを切ったことを意味する。

 目玉政策の一つが、農作業の効率を高めるために水田の集約化を進める「農地中間管理機構」の新設だ。耕作放棄のおそれのある農地を、意欲ある農家や企業に仲介する役割を担う。

 政府は今後10年間で米の生産費を4割削減し、農林水産物と食品の輸出額を20年までに計1兆円に倍増させることを目指す。ただ、現時点でその道筋は明確でない。生産性を追い求めるあまり、小規模農家の切り捨てにつながるとの懸念もある。

 (小笠原寛明)

◆票ナビから TPP参加交渉、目立つ慎重姿勢

 県内の候補者らに重要政策について尋ねた本紙の「中日投票ナビゲーション」(票ナビ)によると、TPP交渉へのスタンスは慎重姿勢が目立った。

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 A(農業分野などで傷みを伴っても、合意を目指すべきだ)、B(農業分野などで傷みを伴うなら、交渉から離脱)、C(今すぐ交渉から離脱すべきだ)の3つの選択肢から回答を選んでもらったところ、県内の候補者でAを選んだのは、2区の自民前職棚橋泰文さんのみ。「貿易・投資円滑化は不可欠。農業分野など含め国益を最大限反映できるよう交渉」との立場だ。

 一方、共産党の候補はいずれもCを選んだ。1区の新人大須賀志津香さんは「日本の農業が崩壊する。安全に問題のある農産物が流入してしまう」と訴える。