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岐阜ニュース

<「この道」はどこへ>(1) アベノミクス、恩恵を感じてますか?

 「ああ、またか」。ため息とともに漏れ出たつぶやきが、無人化された工場内を流れるベルトコンベヤーのモーター音にかき消された。

 半世紀もの間、プラスチック製品を作り続けるコダマ樹脂工業(神戸町末守)。二代目社長の児玉栄一さん(62)に届いたのは、原料の仕入れ先からの「価格是正」という名の値上げの知らせ。この二年間、三カ月ごとにやってくる。

 安倍政権の下で円安が進み、海外から輸入する原料の元になる原油価格は三割上がった。製品原価の四割を原料代が占める同社にとって、「あまりに大きな打撃だった」。輸送代と電気代の値上げが追い打ちをかけた。

 でも、「売値に原材料の値上がり分を乗せるわけにはいかない」と児玉社長。体力があり、価格を据え置く大企業との競争を勝ち抜かねばならず、簡単に価格を上げられないからだ。「こんな状況では従業員の賃上げもままならない」。この二年間で、利益は一割減った。

 「生き抜く道は、付加価値を高める以外にない」。同社は昨夏、化学薬品を入れる新しい容器を開発した。取引先の化学メーカーでは、ナノレベルの精密さが求められる。従来製品では静電気でちりが付いたり、原料の微粒子が表面に浮き出てしまう難点があった。新製品では、これらの数を十分の一にまで減らした。

 研究に五年の歳月を費やした自信作。取引先は「よくぞ作ってくれた」と品質の高さを評価してくれた。けれども、その努力も「もっと円安が進めば、簡単に帳消しになってしまう」。

 中小企業が99・9%以上を占める県内。製造業二十四種のうち、プラスチック産業は二番目の出荷額を誇る。本巣市内でプラスチック工場を営む男性社長(55)は「このまま円安が進んだら、岐阜の産業界全体に元気がなくなる」と不安を覚える。

 テレビのニュースでは「この道しか無い」と訴える安倍晋三首相の映像が繰り返されている。一貫して自民党を支持してきたこの社長。「野党も頼りないし、今回は正直迷っている」。少なくとも二年前に覚えた高揚は、今は無い。

 (安部伸吾)

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 アベノミクス、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認、環太平洋連携協定(TPP)への参加…。発足から丸二年、安倍晋三政権は経済に、外交に「強さ」を追い求めてきた。しかし、加速する競争型社会は強者と敗者の線引きを鮮明にし、保守化路線は隣国との間に新たな緊張関係も生み出した。

 首相の言う「この道」は、私たちをどこへ導いていくのか。安倍政治の二年がもたらした岐阜の現場を歩いた。

◆この2年、進んだ円安株高

 安倍晋三政権は、大企業がもうかれば中小企業の収益や働く人たちの賃上げにつながるとの想定の下、経済政策「アベノミクス」の三本の矢の一つとして大規模な金融緩和を実施した。

 安倍政権の発足前に84円台だった為替相場は119円台に、1万円余りだった株価は1万7000円台に上がるなど景況感は上向きに。有効求人倍率は政権交代前の0.82倍から1.09倍(9月現在)に、完全失業率は4.1%から3.6%(同)に改善した。

 ただ、県民の多くは景気の好転を実感できていない。本紙の世論調査によると、アベノミクスで生活が「よくなった」「やや良くなった」と感じた人は6.5%にとどまる。「悪くなった」「やや悪くなった」は30.1%、「変わらない」が62.2%を占めた。

 (小笠原寛明)

◆票ナビから 脱デフレに道筋、格差拡大の一途

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 県内の候補者らに重要政策について尋ねた本紙の「中日投票ナビゲーション」(票ナビ)によると、アベノミクスの評価は与野党間で大きく割れた。

 「支持する」と答えたのはいずれも自民の5人。1区の前職野田聖子さんは「デフレからの脱却と持続的な成長への道筋がついた」と回答した。

 一方、「支持しない」は8人。4区の維新前職今井雅人さんは「都市と地方、大企業と中小企業、金持ちとそうでない人の格差が拡大している」と批判する。