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<アベノミクスを問う> 株高、庶民に恩恵なし

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 「株をいつ売ったらいいのか」「株価の見通しは」。日経平均株価が一万七七二〇円と三日連続で今年の最高値を更新した三日、岐阜市にある東海東京証券のコールセンターでは、個人投資家からの電話が鳴りやまなかった。担当者は「人が足りない」とうれしい悲鳴。株の高値づかみにならないよう、買い注文を出すタイミングに迷う投資家も多いという。

 丸三証券が十一月下旬に名古屋証券取引所で開いた株式セミナーには個人投資家百十人が詰め掛け、いすが足りないほどの盛況ぶり。講師の経済評論家、杉村富生氏は「株式市場は二十年間、凍り付いていたが、安倍政権が雪を解かした」と強調。セミナーに参加した六十代男性は「この二年安定して株価が上がったのがありがたい」と話した。

 一日に米格付け会社が日本国債を格下げしたばかり。にもかかわらず「官製相場」が株高を後押しする。

 アベノミクスの「第一の矢」の大胆な金融緩和。日銀が国債などを買い入れ世の中にお金が出回り、円安と株高が加速した。株価が伸び悩んだ十月末、日銀はサプライズの追加緩和を実行。同じ日に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金運用で株の割合を増やす方針を発表し、株価を一段と押し上げた。

 駆け巡る緩和マネーが富裕層の資産を膨らませている。名古屋市の六十代女性も恩恵にあずかる一人だ。

 遺産相続を元手に十年前に五千万円の運用を始め、一年前に八百万円の利益を確定。投資信託を買い増し現在の含み益は二千万円近い。毎月の配当金は数十万円と年金収入を上回る。女性は「銀行の担当者の言う通り投資をしただけ」と戸惑うが、投資で出た利益で百万円の家具を購入した。

 富裕層がさらに豊かになって消費し、水がしたたり落ちるように庶民にお金が回る。これがアベノミクスの考え方だ。しかし、恩恵は国民全体に及んでいない。

 日本証券業協会の二〇一二年の調査では、株式を持つ人の割合は12・1%。投資信託も7・7%にすぎない。一方、金融広報中央委員会によると、二人以上の世帯の金融資産のうち、預貯金を含む金融資産を持たない世帯は30・4%に上る。資産を持つ者と持たざる者の格差は広がりつつある。

 家計の負担は重くなった。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、物価の変動分を考慮した十月の実質賃金は前年同月比2・8%減。前年割れは十六カ月連続で、四月の消費税増税や円安による物価上昇に、賃金上昇が追いついていない。消費者は財布のひもを締め、七〜九月の実質国内総生産(GDP)は二期連続のマイナス成長となった。

 十六総合研究所の奥田真之主席研究員は「恩恵を行き渡らせるには、地方のやる気のある中小企業などが成長でき、働き手の給与増加につながる政策や規制緩和が必要だ」と指摘する。

 (稲田雅文)