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賃上げ、中部に期待 日銀総裁、異例の要請

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の一本目の矢として放たれた「大胆な金融緩和」。その主役の一人、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が二十五日、名古屋市内で開かれた金融経済懇談会に臨んだ。「ここで歩みを止めてはならない」と述べ、円安を背景に輸出企業を中心に好業績を挙げている中部の経済界にさらなる賃上げや設備投資などの「行動」に踏み切るよう呼び掛けた。

 「(物価上昇率で目標とする)2%の早期実現の決意にいささかの揺るぎもないことを、あらためて行動の形で示す必要があると考えた」。市場に流し込むお金を年六十兆〜七十兆円から八十兆円に増やそうと十月三十一日に決定した追加緩和を、黒田総裁は講演でこう説明した。消費税率引き上げ後の反動減や最近の原油安で、物価上昇がこのところ頭打ちの状態になっているためだ。

 さらに、七〜九月期の実質国内総生産(GDP)は二・四半期連続のマイナス成長だったものの、「日本経済は基調的には緩やかな回復を続けている」と断言。今回の追加緩和で「二〇一五年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高いとみている」と自信ものぞかせた。

 企業の収益がアップすれば、稼いだお金を従業員の賃上げや設備投資に使い、さらなる消費拡大につなげる−。景気回復に向け、この好循環を起こすことがアベノミクスの最大の狙いだ。黒田総裁は出席した約三百人の経営者に「日銀はこれまでも行動してきたし、これからも行動を続ける。企業の皆さんもデフレ脱却後を見据えた行動をお願いしたい」と訴えた。

 円安の恩恵を受け、先日までに発表があった一四年九月中間決算でも、自動車産業をはじめとする輸出企業を中心に好業績を挙げる中部の経済界を意識した発言。日銀総裁が賃上げを求めるのは異例といえる。

 しかし、出席者からは三田敏雄・中部経済連合会長が講演後の懇談で黒田総裁に「景気回復は地方や中小企業に広がっていない」と述べるなど、政策に対する注文や追加緩和後に進んだ円安への懸念が聞かれた。

 「中小企業にとっては原材料や燃料価格の高騰で、メリットよりもデメリットの方が大きい。過度な円安にならないよう目配りを」と黒田総裁に要望したのは岡谷篤一・名古屋商工会議所会頭だった。懇談会後の取材に、総裁が求める賃上げについて「協力したい気持ちはあるが、各社それぞれが判断すること」と述べるにとどめた。

 一五年三月期の業績で過去最高益を見込むトヨタ自動車では、小平信因(のぶより)副社長が五日の決算会見で「頑張った従業員に報酬として還元するのは重要」と述べた。一方で経営陣の間では「大手ばかりが賃上げを続けても、中小との差が広がるだけ」(首脳)と、トヨタ頼みを警戒する声も聞かれる。

 (稲田雅文、後藤隆行)