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有権者よ投票せよ 衆院選投票率 戦後最低の恐れ

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 中日新聞を含む報道各社の衆院選情勢調査は、与党が圧勝の勢いで一致している。与党の政策が支持されているのか、野党がだらしないのか。投票先を決めていない有権者が多く情勢は変わる可能性もあるが、関心は高まっていないとみて、投票率は戦後最低だった前回二〇一二年衆院選を下回るという予測も出ている。十四日の投開票日まで残り二日。このままで本当にいいのだろうか。いま一度考えてみたい。

 十一日、東京都港区の赤坂地区総合支所内に設けられた期日前投票所は閑散としていた。立会人の男性は「今日は天気が悪いせいか、人が少ない」とぼやく。

 支所では八日、衆院選の啓発イメージキャラクターを務める女優の仲間由紀恵さんが、期日前のデモンストレーション投票をしている。「選挙の主役は私たち。みなさん忘れず投票へ」。仲間さんはそう言ってほほ笑んだものの、七日までの港区の期日前投票者数は前回同時期より少ない。

 支所の期日前投票所を訪れた五十代の女性は「どうせ結果は(情勢報道と)変わらないと思うから、先に投票を済ませたかった」と言葉少な。高齢の男性は「面白くないんだよ、今回の選挙は。投票する前に決まっちゃうんだから。私はこうして投票には来たけれど、来ない人の気持ちも分かる」と吐き捨てるように言った。

 捨て鉢な言葉ばかりが聞こえてきたが、そこはわざわざ期日前投票に足を運んだ有権者である。「与党圧勝」や「低投票率」予想を危ぶむ声は少なくない。

 ある主婦(68)は「与党優勢の報道を見て、このままじゃダメだと、かえって投票したい気持ちが高まった」、別の主婦(69)は「低投票率の選挙結果が政権の信任となってしまうのはよくない」と力を込めた。

 来春から社会人になる大学四年の男性(23)は「同じ学年の友人は社会に一歩を踏み出す前の決意として投票している。三年生以下はあまり投票に行く気がないようだが、社会への自覚が出れば変わるのではないか」と話した。

 全国的に見ると、期日前投票者数は微増。七日までの五日間に二百七十万二千六百六十七人(全有権者の2・59%)で、前回同時期比で十四万七千六百九十六人増となっている。

 ただし、期日前投票者数と最終的な投票率の動向は、必ずしも一致しない。期日前投票が初めて導入された〇五年衆院選は有権者の1・96%に利用され、投票率は67・51%だった。一方、前回は期日前投票が2・46%と上昇したが、投票率は戦後最低の59・32%に落ち込んだ。

 安倍晋三首相が衆院解散を表明した十一月、獲得議席の目標は「自公で過半数」と控えめだった。自民党は、公示前勢力の二百九十五議席から二十〜三十議席の減少を覚悟していた節がある。ところが、ふたを開けてみれば、報道各社の情勢調査は与党の圧勝一色だ。なぜなのか。

 「前回衆院選から二年で解散というのは絶妙のタイミングだった。有権者にとっては、自民党に政権が戻って『まだ二年』で、民主党への拒否感は消えていない。獲得議席を謙虚に予想したのも奏功した」。松本正生・埼玉大教授(政治意識論)は皮肉交じりに論評する。

 勝ち負けの興味は薄れる。松本氏は「解散前は野党一本化への期待もあり、面白くなりそうだったが、報道各社の報道を見たら残務整理状態。政権交代の可能性もなく、イベント的盛り上がりに欠ける上、自民圧勝の予想を見せられると、『投票してもしなくても同じ』と、自分の一票にリアリティーを持ちづらくなってしまう」とみる。

 平野浩・学習院大教授(政治心理学)は「投票率は戦後最低だった前回と同じくらいか、それ以下ではないか」と予測する。確かに報道各社の世論調査では、「投票へ行く」と回答した人の割合は前回よりも低い。

 低投票率で与党圧勝となれば、有権者全体からすると、安倍政権を信任した人たちは「多数派」とは言いがたい。前回衆院選では、投票数に占める自民の得票率は、小選挙区が43・01%、比例代表は27・62%。棄権した人を含む有権者全体でみれば、24・67%と四分の一にすぎなかったが、自民党は衆院定数(当時四八〇)の六割を超える二百九十四議席を獲得した。

 白井聡・文化学園大助教(政治学)は「全有権者の20%程度の支持で安倍政権にフリーハンドを与えていいのか。『入れたい候補がいない、入れたい政党がない』というのは戯言(たわごと)だ」と警告した上で、辺野古移設反対の翁長雄志(おながたけし)氏が圧勝した沖縄県知事選(十一月十六日)を引き合いに出す。

 「沖縄は『どの政治家もあてにならない』などと言ってる場合ではなかった。民心は保革の壁を越えた新しい政治の枠組みを求め、政治家がそれに応えた。民衆が戦う政治家をつくり上げて当選に導いた。国会に『使えない』政治家がいるのは、そんな仕事ぶりを国民が許しているからだ。本土の日本人も戯言を言う前に、できるだけマシな候補を国会に送り出すべきだ」

 白鳥浩・法政大教授(現代政治分析)も国民の責務に言及する。「有権者の半分にすぎない50%台の投票率で、改憲の発議に必要な三分の二の議席を自民党に与えていいのか。今こそ国民はしっかり考えないといけない。政治家が争点を提示できないのであれば、自分たちでマニフェストを読んで判断し、投票所に足を運んでほしい。この衆院選の投票率に、日本人の民度とデモクラシーの成熟度が問われている」

 (白名正和、沢田千秋)