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滋賀

<課題の現場から>(4) 医療

施設、人手ともに不足しているNICU。地域での安全な出産のため対策が急務だ=長浜市立長浜病院で

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 昨年冬のある夕方、湖東地域の民間産婦人科診療所の男性院長(57)は焦っていた。「もう時間がない。なぜ空いていないんだ」

 診療所に通っていた妊婦の陣痛が三十一週で始まった。安全なお産といわれる正産期は三十七週以降。陣痛開始が早く、胎児の心拍も弱まってきた。早産児の処置が可能な新生児集中治療室(NICU)のある病院への搬送が迫られていた。

 NICUがある大津赤十字、滋賀医科大付属、市立長浜など県内の五病院はその日、全病院でベッドが満床。小児科医が常駐する周産期協力病院に指定されている病院で空きがあったものの、妊娠三十二週以上の妊婦しか受け入れない決まりがあり、断られた。

 受け入れてくれたのは、隣県の岐阜県大垣市民病院。深夜の午後十一時ごろ搬送でき、帝王切開で無事女の子を出産したが、男性院長は「女性がより安全に出産するために、NICUの病床を増やしてほしい」と願う。

 県内では、NICUのベッド数は三十二床。国は年間出生数一万人に対し、二十五〜三十床を目標としている。昨年の出生数が約一万三千人の県内では、三十四〜四十床が必要だ。県が三月に策定した医療計画では、六床足りない。加えて、NICUが長期入院への対応でふさがっているケースもある。

 NICU不足の理由はさまざまだ。まずは周産期医療を担う医師や看護師の不足。訴訟リスクや二十四時間対応の必要性から、小児科や産婦人科は避けられる傾向にある。その上、医師は都市部に集中しやすく、県内でさえ地域格差がある。

 周産期医療に欠かせない小児科医。二〇一〇年の調査では、県内の二百二十四人中、八十人が大津市に集中。彦根市と周辺四町でつくる湖東圏域にはわずか十五人だった。

 零〜十四歳の人口十万人に対する小児科医の数で見ると、大津市では百六十二人、湖東圏域では六五・一人となり、約三倍の差。長浜、米原の両市の湖北圏域でも八三・五人にとどまる。

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 全国的にも都心部に医師が集中する傾向がある。厚労省の一〇年の調査では、十五〜四十九歳女性人口十万人に対する産婦人科医数は、滋賀県は三三・九人。全国平均の三九・四人よりも少なかった。一方東京都では四六・四人、京都府は四三・九人と平均を大きく上回っていた。

 県医師会の笠原吉孝会長は「NICUのある病院を増やすだけでは無意味。機能させるには若い小児科医を育てるなどの周辺整備も必要」と、設備の充実のためにまず医師の育成の重要性を訴える。

 地域医療の充実に向け、参院選で各党は何を公約しているのか。自民は「医師や高度医療機器の資源を適正に配置し、地域医療を確保する」とし、民主は「診療報酬を引き上げ、医師や看護師、薬剤師のチーム医療を強化する」。共産は「国の予算投入で医師の養成数を増やす。診療報酬を上げる」と訴える。

 出産を控えている彦根市の主婦(30)は言う。「やっぱり地元で生みたい。地元の医療環境が悪くなるのは悲しい」。医師不足や地域による偏りの解消は急務だ。

(生田有紀)