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滋賀

岐路 アベノミクスの現場(下) 増えぬ雇用 

ハローワークの相談コーナー。県内の有効求人倍率は回復傾向にあるが動きは緩やかだ=甲賀市水口町の甲賀公共職業安定所で

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 ■後遺症

 長浜市の長浜公共職業安定所(職安、ハローワーク)。ここへ週に一、二回通っている四十代の男性は求人情報の端末を見ながら、怒りがこみあげてくるのを必死に抑えた。

 「世間はアベノミクスだ、株高だって騒いでいるけれど、一度ハローワークに行ってこの現実をみてくれ」

 長浜市は、二〇〇八年九月に発生したリーマンショックで、全国各地で派遣や請負会社に雇われた非正規労働者が雇い止めや解雇に遭った「派遣切り」の激震地の一つ。男性は、約千人が職を失った長浜キヤノンに派遣されていた。〇九年三月、同社との契約解除に伴い、派遣会社から解雇。その後、国の緊急雇用対策で自治体の短期間の仕事に就いたものの病気を患い、一年前から月約六万円の生活保護を受けながら職探しを続けている。

 端末に表示される求人は「正社員はほぼゼロ」。あっても薬剤師などの資格職ばかりで「中卒の僕には門前払いと同じ」に映る。キヤノンで働いていた時は「多い月は残業代を含め二十七万円稼げた」。パートやアルバイトなどの募集は多いが、月収十二万〜十六万円程度では、家賃や借金の支払いを考えると「生活ができへん」と男性は嘆く。

 ■変わる職場

 長浜職安管内では最近、製造業の一部で派遣を増やす動きが見られる。西村恭則所長は「景気が良くなったからではなく、海外に工場を移すので工場の在庫を使い切りたいという短期的な需要」と説明する。

 地元製造業で働く日系ブラジル人を支援するびわこユニオン(長浜市)によると、最近の派遣現場の多くは、生産ラインの速度が上がり、一人当たりの作業量が増えるなど「過酷さを増している」。

 同市内の日本電気硝子の工場で派遣労働者として働く五十代男性はリーマンショックで職を失ったが、その後、元の工場に復帰した。以前は十五人で作業していた生産ラインに省力化設備が入り、六人体制に変わっているのに驚いた。

 製造業の従業員数が県内トップの長浜市に次いで多い甲賀市も事情は似ている。市内に新設された工場には軒並み省力化装置が導入され、工場で人手が要るのは機械周りの清掃などの雑務のみ。「地元に工場を誘致しても出てくる募集はパートばかり」と同市幹部はため息をつく。

 日系ブラジル人を積極採用してきた寺嶋工業所(湖南市)は百二十人いた従業員をリーマンショックで半減させたが、最近の受注回復で九十人まで戻した。だが、主要納入先が県内から静岡県へ変わり、生産拠点の見直しを迫られている。

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 ■求人倍率

 滋賀労働局によると、五月の県内の有効求人倍率は0・75倍と近畿六府県で最低だった。県内の雇用情勢は「緩やかに持ち直しているものの依然厳しい状況」と判断している。建設業などの求人が伸び、新規求人数が八カ月連続で増加する明るい兆しも見えてはいるが、最大の雇用の受け皿である製造業はマイナスだった。

 県の有効求人倍率は〇七年四月に1・38倍を記録するなど全国平均や大阪府を上回っていた。それがリーマンショックで急落し、〇九年五月には0・35倍まで落ち込んだのは製造業への依存度の高さを物語る。「地元で最大の雇用主である製造業が良くならないと景気回復の実感は出てこない」(長浜職安)との見方は多い。ものづくりの現場で進む変化を見る限り、雇用が増加する未来を容易に想像しにくいのが現実だ。

(塚田真裕、花井勝規)