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滋賀

岐路 アベノミクスの現場(上) 円安の余波

円安の恩恵などで自動車メーカーからの受注が増え活気が戻った軸受けの生産ライン。一方で原材料や燃料価格の上昇に苦しむ企業も=湖南市石部が丘の日本精工石部工場で

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 安倍晋三政権の高い支持率を支える「アベノミクス」。金融緩和や公共投資の拡大などを推し進める経済政策を有権者がどう評価するかは、参院選の焦点でもある。県内では円安が進んだため輸出企業に引っ張られる形で関連部品メーカーの一部に増産の動きが出る一方、原材料・燃料価格の値上がりは広範な業種に影を落とす。景気の刺激効果が期待される公共投資は予算執行の遅れが目立っている。参院選を前に「産業界」「公共事業」「雇用」の現場を歩き実情を探った。

 ■増産

 湖南市西部の丘陵地に立つ日本精工石部工場。トヨタ自動車など国内の全自動車メーカー向けに「玉軸受け」と呼ばれる部品を供給する生産拠点だ。

 自動車用軸受けでは世界トップメーカーだが、エコカー補助金の終了や中国で発生した日本製品不買運動の影響で、この三月までは操業時間の短縮を余儀なくされていた。ところが金融緩和の波に乗って円安が進んだ影響などで自動車メーカーの採算が改善。四月以降は完成車の輸出増に歩調を合わせるように受注が回復、桑城栄工場長は「フル稼働に近い状態まで上向いてきた」と話す。平日は全ラインを二十四時間稼働させ、土曜日も動かすラインも。八百人の従業員の表情にも明るさが戻ってきた。

 好調な軽自動車販売を追い風に、竜王町のダイハツ工業滋賀工場はフル稼働状態だ。五月以降は連続二交代の増産態勢に移行。四千二百人の従業員に加え、期間工の投入で主力車種「ムーブ」の生産に対応している。

 「商品力の向上で軽市場が活性化している面が大きいが、景気の回復期待から消費者の買い替え需要が伸びている点も見逃せない」(同社)という。

 好調な大手を尻目に自動車部品メーカーの下請け工場(甲賀市)の経営者(52)は「生産品の全量が国内向けのため、円安の恩恵はない」と嘆く。工場の省エネ化や関西電力との契約見直しなど電気代の値上げ対策に躍起だ。「アベノミクス効果が半年後に出てくれば受注も上向いてくるだろう。それまでは耐えるしかない」

 ■地場産業

 円安は、原材料や燃料の多くを輸入に頼っている地場産業にも影を落とす。

 中小のしょうゆ製造業者四十九社が加盟する県醤油工業協同組合(豊郷町)は、しょうゆ製造に欠かせない大豆や小麦価格の上昇が気掛かりだ。既に今年分の仕込みは春までに多くが終わっているが、「来シーズンには影響は避けられそうもない」。

 彦根市を中心に国内最大の産地を形成しているバルブ業界は資材高、燃料高のダブルパンチに見舞われている。産業用弁製造のオーケーエム(日野町)は主力製品であるバタフライバルブの構成部品を半分以上海外からの輸入に頼っており「円安で仕入れコストが上がっているが、販売価格に転嫁しづらい」。「設備投資が活発化してくるまでは辛抱しないと」と、政府の成長戦略に望みをつなぐ。

 信楽焼など窯業が盛んな甲賀市信楽町。外壁タイルなどを製造する近江化学陶器は、生産に不可欠なブタンガス価格が三年前に比べ一・四倍に跳ね上がっている点などを考慮し「製品価格を値上げするしかない」。ただ、円高局面ではストップしていた輸出が「中国や台湾向けにポツポツ出始めた」と言い、一部だが円安による恩恵もあるという。

 しがぎん経済文化センターが五〜六月にかけて県内企業九百九十三社に実施したアンケート(回答率39%)では、円安の経営への影響について「悪い影響がある」と回答した企業は44・5%にのぼり、「良い効果がある」17・9%と二倍以上の差が開いた。とくに製造業で悪影響を懸念する回答が目立っている。

 同センター経済リサーチ部は「円安の恩恵を直接受ける輸出企業に部品を供給する企業が多い産業構造から、生産コスト上昇の負担感が先に表れた形。今後、受注量が伸びてこないと業績が上向いてこないのが県内企業の難しい点だ」と分析している。

(花井勝規)