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岐阜

<一人区の戦い> どうなる経済(下)「ものづくり補助金」

新しい自動車を手掛ける山下社長(左)ら=関市広見のDArtで

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 関市広見にある町工場。五〇平方メートル足らずに、自動旋盤の機械が二台あるだけのこぢんまりとした会社で、二十〜三十代ばかり九人の技術者が忙しく立ち働く。「自分が作りたいものを形にしようと、みな燃えているんですよ」。ベンチャー企業「D Art(ディー・アート)」の山下泰弘社長(41)は目を細める。

 制作しているのは、一人乗りの車だ。現在の車をただ小さくするのではなく、人混みでも路地でも自由自在に乗り回せる新たなクルマ。省エネで、お年寄りや体の不自由な人も乗りこなせる「次世代の乗り物」だ。

 安倍政権が緊急経済対策として創設した「ものづくり補助金」(上限一千万円)を受けることが六月に決まり、来年三月までに試作品を仕上げる予定だ。

 ものづくり補助金は、製造業がはぐくむ「新しい技術の芽」に花を咲かせ、技術立国の地位を守ろうとつくられた。本年度だけで総額一千七億円。全国から一万二千件の応募があり、四千九百件が採択された。しかし山下社長は「政府の基準がないため将来性の低い事業も多い。ばらまきだ」と手厳しい。

 山下社長はかつて、トヨタのカーデザイナーとして高級ワゴン車「アルファード」などを手掛けたが、持病が悪化して退社。「自由に乗り物をつくりたい」という若いころからの夢を追い始めた。

 ベンチャーを立ち上げて七年。数々の零細企業を身近に見てきて、優れた技術がまだ山のようにあると感じている。「単発の補助金ではなく、長い目で育てる姿勢が必要です」

 中小企業対象の産業育成補助金は数多く、財務省主計局は「全体像は把握しにくい」という。ばらまきと指摘される遠因ともみられるが、補助金がきっかけで新ブランドが軌道に乗り始めた会社もある。土岐市肥田町の陶磁器メーカー「大東亜窯業」だ。

 同社が、愛知工業大学と共同開発した陶磁器「おかるのキモチ」シリーズは、「軽くて丈夫」を実現した。強度は通常の三倍、重さは90%。茶わんや皿など百六十品種をそろえた。

 軽く作ろうとすると割れやすく、丈夫に作ると重くなる陶磁器の宿命を、金属成分を増やし焼き方を工夫することで克服した。開発とPR活動に生かしたのは、県産業経済振興センターからの補助金五百七十一万円。

 「補助金をもらえてなかったら、うまく売りだせなかっただろう」。小貝馨常務(59)は振り返る。

 中国産などの低価格品に押されて、売り上げが右肩下がりの陶磁器業界。中小企業にとって、新しい販路を開拓するのは困難だ。

 この補助金は商品展示会の出展費用にも使える。小貝さんは「おかるのキモチ」をひっさげ全国に赴いた。反応の良さから「これは売れるぞ」と自信が持てたという。「補助金さまさまです」

(末松茂永、大島康介)

◆中小企業の支援策について3候補は

 安価な労働力を求めて企業の海外進出が進み、空洞化が懸念される日本のものづくり産業。県内にも多い中小製造業者が成長するためには、どんな環境整備が必要か。参院選岐阜選挙区(改選数1)に立候補している主な政党の候補者3人に意見を聞いた。=上から届け出順

 ■吉田里江さん(47)民新

 ものづくりを中心とする既存の中小企業の技術・技能の伝承、中小・ベンチャー企業の起業・創業・育成の支援体制強化、ODAを活用した海外展開支援、建設現場労働者環境改善、企業の金融・税制面の支援を強化します。

 ■大野泰正さん(54)自新

 日本の創造的なものづくりの技術力を支える中小の製造業者が、優れた人材を確保し、投資を行うことができるような税制と規制の改革が必要である。

 ■鈴木正典さん(49)共新

 中小企業を日本経済の根幹と位置付けた振興・支援策に転換。強引な単価たたきや下請けいじめをなくし、大企業との公正な取引ルールを確立。時給千円以上実現に政府の支援策の抜本的強化。消費税増税は中止する。