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窮状、救えますか

自民党圧勝の報道に、「改憲に突き進むのでは」と不安を漏らした丸山忠次さん=21日午後9時1分、愛知県長久手市で

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 自民党が圧勝した参院選。安倍首相は衆参のねじれ解消による「安定した政治」を強調するが、有権者には選挙結果への複雑さものぞいた。

◆原発 

 名古屋市千種区のカラオケ店。投票を済ませて友人らと歌っていた愛知淑徳大四年の山田星河(せいが)さん(22)は、投票が締め切られた午後八時、スマートフォンを取り出して選挙速報をチェックした。

 「やばいよ、これ。自民党が望む通りに、何でもできちゃうってこと?」。次々に伝えられる自民候補の「当確」。複雑な思いにさせたのは、ボランティアで何度も足を運んだ福島市の光景だ。

 今年五月に訪ねた仮設住宅で、避難していたおじいさんが亡くなったと聞かされた。原発事故以来、その仮設住宅だけで三人目。今も自宅に戻れない被災者たちは仮設暮らしに疲れ切っているが、自民党の幹部は六月、「原発事故で亡くなった人は一人もいない」と言い切った。

 山田さんは名古屋市内での脱原発デモなどを通じ、多くの人が原発に「NO」を出していると感じている。圧勝した自民の公約は原発再稼働に前向きだが、「福島の現実を知っていれば、簡単に再稼働なんて言えないはず。被災地の声、国民の意見をよく聞いてほしい」と望んでいる。

◆改憲 

 太平洋戦争をフィリピンで経験し、戦後に引き揚げてきた愛知県長久手市の無職丸山忠次(ただつぐ)さん(74)は、自民圧勝を伝えるテレビを自宅の居間で見つめた。「これで改憲、改憲と突っ走っていくんじゃないか」。腕を組み、ため息を漏らした。

 自民が昨年四月にまとめた改憲草案に盛り込まれた「国防軍」。丸山さんは「軍」と聞くたびに、六十八年前の悪夢を思い出す。フィリピン南部ミンダナオ島の町、ダバオ。米軍の攻撃が激しさを増す中、日本人街の外科医だった父輝広(てるひろ)さんは終戦直前、スパイの嫌疑を掛けられて日本兵に殺害された。

 同じ日本人に肉親を奪われた理不尽さを悲しむ余裕もなく、母と兄と四カ月間、銃弾が飛び交うジャングルを逃走。死んだ牛や馬、木の根を食べ、下痢に悩まされながら生き延びた。帰国後、母は一人で働いたが暮らしは貧しく、医師になる夢はかなわなかった。戦争が、人生の大事な部分を奪った。

 参院選が終わり、改憲議論が本格化する可能性もある。「記憶の風化が改憲論を招いている。統制を失った軍の怖さを、安倍首相らは知っているのだろうか」と話し、戦争の怖さと惨めさを知る一人として「体験を語り継いでいく」と決めている。

◆増税 

 生活保護で暮らす名古屋市内の小原光信さん(42)は、夕飯で寄った自宅近くの食堂でテレビに見入った。「選挙の結果は予想通り。状況は悪くなる一方です」

 生活保護を申請したのは三年前。愛知県三河地方や岐阜県内で自動車や電機部品メーカーの派遣社員として働いていた時、がんが見つかった。胃潰瘍も併発し、血を吐いて倒れて失職。手術代や入院費がかさみ、貯金は底をついている。

 安倍政権は来月から、生活保護を段階的に削減する。小原さんの手元にも名古屋市から減額通知が届き、現在の月額約十一万七千円から千二百三十円が引かれる。家賃三万五千円、六畳のアパートに一人暮らし。電気代を抑えるために冷房は使わず、車の騒音で窓も開けられずに汗だくで眠っている。

 職を求めて五十社以上の面接を受けたが、病気などを理由に不採用が続いている。来年四月には消費税の8%への増税が予定され、生活が一層厳しくなる。小原さんはもう一度、当選者がバンザイするテレビを見つめた。「今でも切り詰めて生活しているのに…。これから生きていけるのでしょうか」