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<アベノミクスを問う> 消費税 小売り

消費税増税後の価格転嫁や消費冷え込みを心配する鈴置鉱市さん=名古屋市西区で

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 シックな色柄のシャツやパンツがずらりと並び、その周りに注文服の生地がぎっしり飾られている。名古屋市西区の押切町商店街にある婦人洋装店で、店主の鈴置鉱市さん(88)はため息をつく。「私ら下町では実感がわきませんわ」。日銀が今月十一日に、国内景気判断で復活させた「回復」の文字に首をかしげる。高級ブランド服が売れる百貨店の活況は別世界に映る。

 店を構えて六十一年。高齢になった得意客が次々と他界する一方、新しい客がなかなか付かない。四半世紀前に三千万円を超えた年商は、今では三分の一に落ち込んだ。「ここ二、三年が一番きつい」とこぼす。

 気がかりは、来年四月にも消費税率が5%から8%になること。「増税分を転嫁できるかは大きな問題です」。個人店の魅力は対面販売だけに「増税分をまけてくれ」と言われたら断れない。

 国会で成立した消費税価格転嫁法は、「消費税」をうたうセールの禁止を打ち出した。西区商店街連合会長として年末セールを考える鈴置さんは、やりにくさも感じる。「景気が末端まで回復してから、消費税が上がるなら良いのだけど」

 セールの文言まで規制するのは、スーパーなどの大型小売店に商品を納める中小企業が、増税分を転嫁しやすくするため。大型小売店側が、増税分の減額を求める「買いたたき」も禁じられる。

 「分からないことも多いが、スムーズな転嫁を願う」。東海地方のスーパーなどに納品する名古屋市の食品会社の社長(50)は切実に語る。当面は認められる価格表示の外税方式(税抜き価格表示)をスーパー業界が採用する動きも朗報という。納品価格の交渉で「消費税分がしっかり分けられるので、増税分を削られないだろう」と期待する。

 日本の財政再建を考えると増税はやむを得ないが、消費者の低価格志向が続いている。「デフレを脱却しないと厳しさが増すばかり。素材のこだわりに目が向けられるように、どこかで潮目が変わってほしい」

 スーパーのドミー(愛知県岡崎市)では、自動車産業の業績回復を追い風に、来店客の購入単価が上向いてきた。それでも増税時の価格対応は「非常に難しい」と、社長の梶川志郎さん(69)は頭を悩ます。業界団体の方針に従って外税の値札を使う考えだが、低価格の自主ブランド商品を「さらに値下げして、値ごろ感を保つ価格に見直す努力が必要だ」という。

 来年四月の消費税率引き上げは、景気回復が前提。実施するかどうかは、安倍政権が今年十月にも最終決定する。全国商店街振興組合連合会理事長の坪井明治さん(67)=愛知県商店街振興組合連合会理事長=は「地域経済の下支えが必要」と景気対策を求め、各地の商店街で発行するプレミアム商品券などへの支援を例に挙げる。

 二〇一五年十月の税率10%への引き上げも控え、鈴置さんは先行きを案じる。「増税後の消費は恐らく落ち込む。このままで税収は増えるだろうか」

 (後藤隆行)