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<アベノミクスを問う> TPP 自動車

自動車部品を溶接する永野さん=名古屋市港区の永野製作所で

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 名古屋市港区にある従業員八人の小さな町工場。アルミ製の自動車部品にボルトをはめ、通電ボタンを押すたびに「ブシュン、ブシュン」と火花が飛び、溶接されていく。

 溶接業、永野製作所社長の永野信雄さん(67)は「円安でトヨタさんが好調なのは心強いよ。下請けは、まだ実感できないけれどね」と語る。

 トヨタ自動車系に部品を納める三次下請け。毎年決算後の四、五月は受注が減る。ただ今年は生産調整が長引いているのか六月になっても仕事が戻らない。アベノミクスの恩恵が二次、三次の下請けにしみわたるには時間がかかる。「円安で、やがて溶接材料の銅の価格も上がるかもしれない」と気をもむ。

 まして環太平洋連携協定(TPP)への賛否となれば「業界にとって良い話。でも、私たちには遠すぎて話題には上らない」。安い農産物の輸入で守勢に回る農業界とは対照的に、輸出で攻める自動車業界はTPP推進の立場だが、関心はそれほど高まっていない。

 TPP参加で国内総生産(GDP)を三兆二千億円押し上げる−。三月、安倍政権は農業へのダメージを認めつつ、自動車輸出の増加など総合的な経済効果を強調して、交渉参加を表明した。

 そのわずか一カ月後、TPPで「コメの聖域化」を目指す政府は米国との事前協議で、米国が輸入乗用車にかける関税2・5%の撤廃時期の先送りを認めた。

 「車が、農業を守るための交渉カードとして利用されているんじゃないか」。金型部品メーカー「オネストン」(名古屋市天白区)社長の鈴木良博さん(40)は疑問を感じている。

 TPPへの関心が盛り上がらない背景には、自動車メーカーや大手部品メーカーが、円高リスクを避けるため海外現地生産を強化していることがある。

 トヨタは既に主力市場の北米で売る車の七割を、ホンダは九割をそれぞれ現地生産化。もはや対米輸出の伸びは期待できず、関税が残ったとしても「超円高の影響に比べたら誤差の範囲」(トヨタ幹部)との見方もある。

 ただ、米国への譲歩は、日本がTPPで車の輸出増をもくろむ他国にも波及する。日米の事前協議を受け、輸入車への関税率5・0%のオーストラリアや6・1%のカナダからも、日本に対し、関税撤廃の猶予を主張する声が上がった。

 海外進出せず日本に残る中小企業には、輸出への期待が根強い。少子化で国内需要が減っているが、輸出が増えれば、減少分を補ってくれるからだ。

 日本金型工業会で国際委員長を務める伊藤製作所(三重県四日市市)社長の伊藤澄夫さん(71)は「関税ゼロの例外が認められれば、有利になるのは交渉下手な日本ではなく、力を持っている国だ」と心配は尽きない。

(太田鉄弥)