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闘病生活に希望を 成長戦略、がん患者は

検査入院した病院の一室で、ピアサポーターの資料づくりのためパソコンに向き合う鈴木さん=名古屋市内で

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 「きょうは体の痛みが少ないな」。すっきり起きられた朝はうれしい。鈴木真弓さん(53)は愛知県の自宅で、玄米や野菜中心の朝食に取り掛かった。

 二〇一〇年に肺がんで「余命六カ月」と告げられた。勤め先の保険会社は休職中。がんはこの三年で肺から肝臓、脳、胸や腰の骨に転移し、今はステージ4(末期がん)。

 一日一錠、抗がん剤を飲む。がん細胞だけを狙って働く新薬。保険が利いても、一錠三千円する。「薬局で明細を見るたび、びっくりする」額になる。

 放射線治療のため、車を運転し、名古屋市内の病院へ。治療を始め、骨がもろくなった。腰も痛く、歩きづらいため、病院の入り口まで迎えに来てくれた車いすに乗り換えた。

 治療法は部位により異なる。肺に抗がん剤、脳と胸、腰骨に放射線、肝臓はラジオ波の治療を受けている。

 参院選を前に、安倍晋三首相は「成長戦略」で、抗がん剤の新薬を速やかに認可できるようにするため、審査期間を三カ月程度に短縮する方針を打ち出した。ただ、鈴木さんには不安がある。

 以前、輸入抗がん剤「イレッサ」を服用していた。夢の新薬ともいわれ、〇二年に申請から異例の五カ月の速さで世界に先駆けて承認されたが、人によって副作用が激しく、九百人近い死亡例が報告されている。

 未知の可能性を秘めた最新の治療法に、飛び付きたい気持ちは痛いほど分かる。だからこそ「どうしたら審査期間が今の半分に短縮できるのか。国が安全性を冷静に判断してほしい」。

 がん患者が同じがん患者と、治療の悩みや不安を相談し合う「ピアサポーター」参加のための資料づくりを始める。

 五年生存率は5%と言われ、三年が過ぎた。「普通に暮らしている姿を皆に知ってもらいたい。がんに苦しむ人に、頑張って生きていると、希望を持ってもらえることが私の使命だと思っている」

 サポーター活動で知り合った中に、金銭面から、がんの治療を諦めた人がいた。一家の大黒柱として働き盛りの四十代の男性だった。今はどうしているだろうか。

 就寝前、ゆっくり時間をかけて入浴する。体の痛みが和らぐように、と。昨年末、突然激しい痛みに襲われて二カ月間入院した。いつまたあの痛みが訪れるかもしれない。

 がんはいずれ抗がん剤に耐性を持ち、薬は効かなくなる。新薬開発のため、二度、治療試験に応募した。「自分で結果が出なくても、次の人たちのためにデータが役立てば」と思った。

 医療分野も、規制緩和の流れにある。最近よく耳にする「混合診療」の解禁もその一つだ。混合診療が解禁、拡大すれば、国の負担は減る一方、薬の値段が上がり、患者の負担が大きくなる可能性がある。

 「お金持ちだけではなく、誰もが同じように受けられる医療であってほしい」。譲れない思いだ。(柚木まり)

◆混合診療解禁、分かれる賛否

 混合診療の解禁など医療分野の規制改革は、小泉政権の「聖域なき構造改革」で本格的な議論が始まった。

 混合診療とは、保険診療と、保険が使えない自由診療を併用すること。解禁で、医療格差をもたらしたり、安全性に問題を生じるのかは賛否が分かれる。

 政府の規制改革会議は二〇〇四年の報告で、混合診療の年度内解禁を求めた。しかし、厚生労働省は、解禁すると安全性や副作用が十分確認されないなど危険性を訴えた。

 政府は〇六年、安全性や有効性を審査した上で例外的に混合診療を認める「保険外併用療養費制度」を創設。安倍晋三首相は先月発表の成長戦略で、制度を使える範囲を、今秋から抗がん剤で拡大する方針を示した。日本維新の会やみんなの党は混合診療の全面解禁や拡大を参院選の公約に掲げる。

 成長戦略には、一般用医薬品のネット販売の全面解禁も盛り込まれた。厚労省は安全性を理由にうがい薬などを除き禁じてきたが、利便性を求める消費者の声も強く、最高裁の判断も後押しした。