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やっとこさ、喜び1票 女性初投票から70年、93歳の思い

2016年6月21日

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 二十二日公示の参院選から「十八歳以上」となる選挙権の拡大は、女性が参政権を得た一九四六(昭和二十一)年の衆院選以来、七十年ぶり。その歴史的選挙で投票した名古屋市港区の千原みささん(93)が、十八歳のひ孫二人と語り合った。戦火の後に訪れた「喜びの日」を思い返しながら、ひ孫の世代全員に伝えたい思いを託した。「せっかくの権利だもの、無駄にしちゃいかんよ」

 「おばあちゃん、選挙のこと聞かせて」

 梅雨空に覆われた日曜の昼下がり。千原さんが一人で暮らす集合住宅に、ひ孫で大学一年の岸大貴さんと専門学校一年の平野由加里さんがやって来た。

 「投票には行くつもりだけど、誰に入れたらいいか分からない」と平野さん。「ぼくは行かないかも…」と悩ましげな岸さんは時事問題に疎いと思っているといい、「選挙は大事だと思うからこそ政治の仕組みを理解していないと投票は荷が重い」と打ち明けた。

 「強いることはできんしなあ」。そう言って腕組みした千原さん自身は、あの日以来、一度も投票を欠かしたことがない。

 四六年四月十日、故郷の三重県領内村(現・大台町)の小学校。教室の中央に置かれた投票箱と居並ぶ村幹部たちの顔を見比べ感慨にふけった。「やっとこさ女も認められたんだな」

 前年の選挙法改正で実現した史上初の男女普通選挙では、女性有権者の66%の千三百八十万人が投票。旧満州(中国東北部)や熱田空襲で戦禍の悲惨さを体験し、戦後は周囲から「早く家庭に入れ」と言われてきた千原さんにとって、手にした一票は「新時代を照らす光」に感じられた。

 投票したのは、三重を地盤に明治期の第一回衆院選から史上最多の二十五回連続で当選し「議会政治の父」と呼ばれる元東京市長の尾崎行雄。政治の知識はなかったが「伊勢神宮で見かけたことがあるし、立派な人だと分かっていたから」。後に日本民主党との保守合同で自民党となる日本自由党が初の第一党になったこの選挙で、尾崎は無所属ながら三重全県区で十六万票を集めトップ当選した。

 この経験で政治に目覚めた千原さんは結婚、出産、離婚や伊勢湾台風での自宅倒壊も経験する中で、その時々で自分が置かれた境遇を最も変えてくれそうな施策を訴える候補者を選ぶようになったという。

 「今まで少なくとも百回以上は投票してるわけだよね? すごーい」

 そう無邪気に話す平野さんに「最近は尾崎さんみたいに立派な政治家がいないから若い人が迷うのも無理ないわなあ」と笑いかけた千原さんだが、やがて真顔に戻ってつぶやいた。

 「でも、一票の入れ方をまじめに考えることは後々の自分のためになるからな、たとえ白票でも、ばあちゃんは投じることに意味があると思うんだ」

 (谷悠己)

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