長野

<争点の現場>(5) アベノミクス

2016年6月18日

◆地方商店街 届かぬ恩恵

 今月十二日夕、JR長野駅前には大勢の人が集まっていた。視線の先には身ぶりを交えて演説する安倍晋三首相の姿があった。

 「長野の有効求人倍率は一・三九倍。すべての都道府県で一倍を超えたのは史上初のことだ。若い皆さんも学校を卒業すれば、就職先があるんです」。安倍首相が、堅調が続く有効求人倍率を引き合いに出し、経済政策「アベノミクス」を自賛すると拍手が起きた。

 長野労働局によると、県内の高い有効求人倍率は、北陸新幹線金沢延伸やNHK大河ドラマ「真田丸」の放送などでビジネスや観光客が増加し、小売りやサービスなどの分野の求人が旺盛なことが理由という。

 だが、求人が増えている業種は派遣など非正規労働で、正社員になりたい求職者との間にミスマッチがある。さらに、正社員の求人が多い製造や建設といった、県内の基幹産業の求人はマイナス傾向にある。

 労働局の担当者は「経営側も目の前の仕事があり、人手不足感もある。ただ、中国経済の不透明さなど不安要因が残るため、設備投資を増やしたり、正社員を増やす段階には至っていない」と分析する。

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 安倍首相の演説から数日後、善光寺のお膝元にある権堂商店街(長野市)で理容店を営む市村信幸さん(69)は、常連客の来店日を記した顧客カードを見て、深いため息をついた。

 前回来店日からの間隔が「四十五日」「五十日」と長く、来店頻度が減っているからだ。二〇〇一年に始まった小泉純一郎首相(当時)の構造改革以降、こんな調子が続いている。相次ぐ消費税の増税やディスカウント店の台頭、少子高齢化で理美容店を取り巻く環境は悪化するばかりだ。

 十年前まで市内にある五店舗に従業員は五十五人いたが、今では三店舗で十二人と大幅に縮小した。「アベノミクスで株高や金融緩和と言っても、店やお客さんには関係のない話。店を守るため、縮小せざるを得なかった」と語る。

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 地方にアベノミクスの恩恵は届いているのか。真田丸効果によって上田市の上田城跡公園周辺は観光客が押し寄せ、かつてないほどのにぎわいが続いている。

 しかし、少し離れた場所にあるJR上田駅前の海野町商店街はシャッターを閉じたままの店が目につく。同商店街振興組合の瀬下(せしも)敦副理事長(50)は「商店街は疲弊し、パートやアルバイトさえ雇う余裕はない」と現状を語る。

 五月の大型連休中は観光客が公園から商店街に足を延ばして散策する姿もあったが、ドラマ効果による一過性の現象ととらえている。上田に限らず、地方都市の中心市街地の空洞化は待ったなしで進んでいる。瀬下さんは「郊外に大店舗ができて人の流れが変わり、少子化など時代の波に最も翻弄(ほんろう)されているのが商店街だ。政治家も選挙中だけでなく、足を運んで現状を知ってほしい」と願った。

 =終わり

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 この連載は沢田佳孝、今井智文が担当しました

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