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チャンバラ青春の一振り 金沢大の小太刀護身道部 

学生の人気 理由は取っ付きやすさ

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 放課後、丸めた新聞紙で刀を作ってチャンバラごっこをする−。そんな子どもの風景が減っている中、チャンバラに熱中する大学生たちがいる。金沢大の「小太刀(こだち)護身道部」、通称スポーツチャンバラ部。遊びではなく競技として、全国の大学に広まっている。「スポチャン」に青春を懸ける学生剣士たちの素顔に迫った。(堀井聡子、戎野文菜)

 「シュポシュポ、シュポシュポ」。練習は、武器に付いた専用のチューブに、ポンプで空気を入れることから始まる。雑談をしながら、和気あいあいとした雰囲気。五十センチほどの小太刀、一メートルほどある長剣、二メートル近い槍(やり)など、次々と武器が出来上がる。いざ、練習が始まると、武道場は静まり返った。相手と向き合う表情は真剣そのものだ。

 「パーン」「カーン」。武器が体や床を打つ音が響く。勢いよく踏み込む足が床を揺らす。準備をしていたときとは打って変わって、部員たちの目は気迫に満ちた。「ありがとうございました」。打ち合いが終わり、また笑顔が戻った。

 部には、四十〜五十人が所属。普段は週に二回、三十人ほどが集まり、金沢市兼六中学校の武道場で練習に励んでいる。

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 基本ルールは、相手の体を打ったり、突いたりできれば勝ち。盾を使う種目もあり、戦い方はバラエティーに富む。戦闘スタイルもさまざまで、飛び跳ねながら前後左右に動く人もいれば、一カ所に留まり、好機を狙う人もいた。

 勝敗が決まり、面を脱いであいさつを交わす姿は、健闘をたたえ合う剣士らしく、はつらつとしていた。

 スポチャンは、どのくらい大学生に広まっているのか。一般社団法人日本スポーツチャンバラ学生連盟(東京都)によると、大学生の競技人口は1300人。今年4月現在で42大学が加盟し、北陸では金沢大のみ。国内全体では30万人で、海外は40カ国に計10万人がいるとされる。国はフランス、イタリアなど欧州が中心で、世界選手権も開かれている。

 スポチャンは1971年、護身道の一つとして生まれた。大学に普及するようになったのはここ20年。サークル創設のノウハウを伝授したり、用具を貸し出したりしている。自身も大学からスポチャンを始めた岩尾光平代表理事(40)は「中学や高校の部活と違って、大学はサークルなどが立ち上がれば自立して活動できる」と狙いを語った。

 なぜ学生に人気なのか。岩尾代表理事は「大学からでも始めやすく、学生の8割は未経験者。受け身など型の練習も短い期間で済み、すぐに試合に出て活躍できる」と、戦術が自由なスポチャンならではの取っ付きやすさを挙げた。

「豪腕の騎士 本能のままに」 2年 鈴木勇汰部長(21)

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 温和な雰囲気だが、その体から繰り出される攻撃は力強い。柔道で鍛えたパワーは他の部員からも評判だ。得物は長剣。相手の懐に素早く入り込み、足を打つのを得意とする。「試合の組立を考えるよりは、感覚的に戦っている」と話す。

 高校で柔道部に所属し、武道の面白さを知った。だが柔道では、短期間に両肩を順番に脱臼した苦い思い出も。部活の勧誘でスポチャンを知った。武器を使う武道をやりたいという思いがあり、入部を決意。それと「武器が軟らかく、安全そうだったから」とはにかみながら振り返った。

 元々、人がやらないことをやるのが好きな性格。スポチャンは、そんな自分にぴったりの部活だった。「チャンバラは子どもの遊びというイメージがあるけど、実際の試合では実力がある人が必ず勝ち上がる。勝つのに理屈があるのが面白い」と魅力を語った。

「連撃の槍騎兵(ランサー) ロマン全開」 3年 納藤(なっとう)真実さん(21)

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 槍(やり)の両端に刃の部分がある「棒」の使い手。身長よりも長い武器で相手の攻撃を左右に払い、時には回転させ、乱れ突きを繰り出す。「長い武器はロマンがありますよね」。漫画の戦闘シーンが好きで、お気に入りは「銀魂」「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」という。

 子どものころ、兼業農家の実家に転がっていた畑に挿す支柱を、武器に見立てて振り回していた。スポチャンを知ったのは部活のツイッターがきっかけ。簡単そうと思っていたが、「冬もはだしで寒いし、初心者は足の裏の皮がむけるので、お風呂に入るとすごくしみる。歩くのも痛かった」と修業の日々を振り返る。

 スポチャンは服装も戦術も自由。今年のハロウィーンは、古代エジプトの死者の書に描かれる神「メジェド(打ち倒す者)」の仮装で練習に臨んだ。「堅苦しくなくて、やりたい動きができる自由さが好きです」

「暴れない将軍 頭脳派の技」 2年 安達智明さん(21)

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 小さい頃から水戸黄門や暴れん坊将軍が好き。「おばあちゃんとよくテレビで見ていて、鮮やかな殺陣にあこがれていました」。クールな表情が、時代劇の話になると和らいだ。

 高校までは陸上部に所属し、400メートルの選手だった。大学は別のスポーツをしようと考え、「サッカーや野球は昔からやっている人にかなわない」と選んだのがスポチャン。「経験者はほとんどいないので、みんな同じスタートラインから始められる」と入門しやすさが決め手だった。

 得意な武器は、長さ一・八メートルほどの槍を用いる「長巻(ながまき)」。長い武器は一振りに時間がかかるため、相手と何度も打ち合えない。渾身(こんしん)の一撃を打ち込むため、いかに相手の防御を破るかを常に考えている頭脳派だ。「強い選手の動画を見て研究している。時代劇の殺陣はさすがに参考になりませんからね」と笑った。

「神眼のくノ一 華麗に刺す」 3年 中司(ちゅうし)侑里さん(21)

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 テニスで鍛えた動体視力で相手の攻撃を見切り、すかさず短刀を突き出す。左手で防御しながら華麗に刀を操る姿は、忍刀(しのびがたな)で戦う女忍者さながら。「テニスボールを追う視力と足を踏み出す動きが、スポチャンに生かされているんです」と切れ長の目でほほ笑んだ。

 高校までテニスをしていたが、「新しいことを始めたい」と入部。競技人口が少なく入賞を狙いやすいのも魅力だった。「ネット越しに戦うテニスと違って接近戦。初めは怖かった」と話すが、相手の試合映像を見て対策を練り、学生の短刀女子の部で全国ベスト4に。「と言っても出場したのは九人なんですけどね」

 戦う姿は真剣そのものだが、男女や学年関係なく戦う競技だからこそ、部員同士に壁はない。「戦術に個性を出せて、自由度が高いから続けられる。部活の雰囲気もすごく好き」と居心地の良さを実感していた。

〜ふたりの深ぼり〜

 「チャンバラごっこをしたことがある学生はあまりいないのでは」と思って臨んだ取材ですが、質問してみると「新聞紙を丸めて兄と戦った」「支柱を振り回していた」という答えが返ってきました。意外と思い出に残っているようです。

 ちなみに私は子どものころ侍より忍者派で、トランプを手裏剣のように投げ、天井から糸でぶら下げたキュウリに刺す練習をしていました。(堀井聡子)

 なんだか厳格で、とっつきにくい印象があった武道。チラシで作った剣で戦う「遊び」のイメージしかなかったチャンバラ。スポチャンは、どちらともひと味違う独特な世界でした。

 真剣勝負だけど、堅苦しくない自由さを感じました。真面目だけど、既存の型にははまりたくないと思っている学生の望みに、応えてくれるのが人気の理由ではないかと思います。(戎野文菜)

 

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