トップ > 北陸中日新聞から > popress > 特集 > 記事
トイレ 世界の入り口
温水洗浄便座の普及率でほぼ8割とトップを走り、トイレに投資を惜しまない北陸地方には、15の国と地域の便器がそろう施設がある。石川県小松市の日本自動車博物館だ。クラシックカーが並ぶ横には「世界のトイレ」の案内板。どうやら使うこともできるらしい。これは試さずにはいられない。 溢れる個性 見て使って小松・日本自動車博物館ドイツ、台湾、フィンランド…。男子トイレには、世界各地で製造された多国籍の小便器が並ぶ。中国製は横幅が広くて重厚。スウェーデン製は細長くてスタイリッシュ。オーストラリア製は突起が付く。尿を床に落とさないための工夫だろうか。
個性豊かで目移りするが、どうせなら最難関に挑もうと、ベトナム製を選んだ。便器は膝ほどの高さにあり、口は半径20センチほど。的の狭さに緊張したが、なんとかこぼさずに終えられ、妙な達成感を覚えた。 女子トイレは、もっと多彩だ。ピンク色のフランス製の便座はふたがハート形。米国製の便座は幅44センチ、奥行き46センチのビッグサイズ。ライオンの彫刻付きや木製の便座など、眺めるだけでも飽きない。
車好きの夫に連れられて来館した松山市の病院職員前田友里さん(32)は「ただトイレに行くだけじゃなく、楽しめる。かわいいからフランスを使いました」とはにかむ。両親と来た石川県津幡町の喜多愛生(あいせい)君(5)は「全部違うトイレで面白かった」と笑顔。車目当てで来たはずなのに、トイレも満喫していた。 掃除徹底 エラい人も汗世界のトイレは1995年、博物館を富山県小矢部市から現在の場所に移転した際に設置。自動車は男性好みの展示だからと、一緒に来た女性も楽しめるものを考え、化粧直しにも使うトイレを充実させた。
40個の便器は21年前に買いそろえ、今も現役。女性用の2つだけ温水洗浄便座を付けた以外は、破損や汚れもほとんどない。 清掃チェック表の最初の項目は「新品同様に見た目がきれいか」。週2回、掃除の担当者が休む日は、別の従業員が掃除をする。役職が高い人でさえトイレ掃除は免除されない。昨年11月に別の企業から来た高川秀昭副館長(65)は「僕も『掃除してください』と言われました。みんな嫌がらないんです」と感心する。
窓口に立つ女性職員(26)も真っ赤なスカート姿の制服のまましゃがみ込み、人目に触れない便座や便器の裏側まで雑巾で拭く。すべて終えるころには、汗が浮かぶ。4年前に入社したときは想像もしなかった業務だが、嫌ではないという。「お客さんにお見せする展示物だという気持ちがあるからでしょうか」。その爽やかなほほ笑みを見ながら、「さっきベトナム製の小便器の周りを汚さなくて良かった」と心底思った。 東京五輪へ 公共施設「改善を」東京のNPO法人 外国人らの困り事調査世界中の人々が来日する4年後の東京五輪に向けて、東京都港区のNPO法人「日本トイレ研究所」は公共施設のトイレの環境改善を呼び掛けている。国内には、清潔で便利なトイレは増えているけれど、困り事はまだまだある。
「外国人からは『ボタンが多すぎて困る』という声もありました」と加藤篤代表(43)は語る。お尻の洗浄や乾燥など、日本の最新トイレには多彩な機能がある。一方、海外にはお尻を手で洗う習慣の国もあり、ハイテクな便器はなじみが薄い。タイのトイレと和式で使い方が前後逆なことや、説明が日本語だけなことに戸惑う声もあった。 困り事は一昨年11月から1年余りかけて調査。外国人の他、高齢者や障害者、子育て中の人などから2141件集まった。今月からWEBサイト「TOILET NIPPON」で公開。今後、改善に取り組む。加藤代表は「トイレの困り事は、異文化や障害を理解する入り口になる。みんなで一緒に考えていきたい」と語った。 担当・福岡範行 PR情報
|
|
Search | 検索