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画中日記

能登へ 10 心に勇気 珠洲は暖かく

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 ×某月某日

 長いこと、挿絵や装丁画に関わりながら生計をしてきたが、仕事が上手(うま)くいく日とそうではない日がある。何かが違うのだろうが、私には分からない。ただ仕事が順調にいき納得できる画が描けた時は、全てのことを忘れてこの世はまるで自分中心に動いているように錯覚してしまう。

 昔、仏師たちは、一彫しては、三礼をしたという記述にであったことがあったが、そろそろ私も自分は何者であるかに気付き、ただただ描かせていただけることに深く感謝しなければならないのだと思うようになった。

 そういえば、昨年文芸誌『小説すばる』に、神奈川県出身の作家深緑野分さんが、「思い出ステーション」というエッセーの中で、能登線珠洲駅での思い出の一こまをつづられていた。

 九年前の三月、当時二十二歳だった深緑さんは、家庭の問題もかかえながら金沢駅から珠洲市行きの特急バスに乗られた。目的地は珠洲にある自家焙煎珈琲(ばいせんコーヒー)豆の店だったという。早春の能登は曇天で、たえまなく雪が降り続き白一色だったらしい。

 特急バスの終点は珠洲駅で、市内バスが来るまで陽が落ちた駅舎のストーブにぽつねんと暖をとられている描写に旅行者の深い孤独感がにじみ出ていて胸が痛んだ。その心細かった深緑さんを勇気づけたのは、黄色い車両から大笑いしながらはじけるように降りてきた地元の制服姿の高校生たちだったという。少年少女たちは誰も防寒具を着けず極端なほど明るく、深緑さんはなんと、身体がほのかに暖かくなり元気を取り戻していかれたのだという。

 この話とは別だが、ここに出てくる自家焙煎珈琲豆のお店を舞台にした映画ができたのだという。

 来年の輪島を舞台にしたNHKの朝ドラも楽しみだが、こちらも楽しみだ。

 ※「画中日記」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

 

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