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北陸文化

人間中心でいいのか 展示室での演劇「消しゴム森」

チェルフィッチュと金氏徹平さん 金沢21美で上演

 演劇作家の岡田利規さんが主宰する「チェルフィッチュ」と美術作家の金氏徹平さんによる、展示室を使った演劇「消しゴム森」が、改修を終え再オープンした金沢21世紀美術館で始まった。契機になったのは、岡田さんが東日本大震災の被災地となった岩手県陸前高田市で感じた「人間中心主義」への懐疑。そこから「人間中心の演劇でいいのか」という問いが生まれたという。人間、モノ、空間、時間の新しい関係とは−。(松岡等)

展示室内で俳優が観客と混じり合いながら演じられる演劇「消しゴム森」=金沢21世紀美術館で

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 昨年十月に京都で上演された劇場版「消しゴム山」の美術館版。七つの展示室を使い「演劇」「彫刻演劇1、2」「映像演劇1、2」「モノたちへの映像演劇」「モノたちの演劇」というタイトルで、それぞれの部屋でライブパフォーマンスが繰り広げられる。

 「演劇」と名付けられた部屋に入ると、床の上におもちゃ箱をぶちまけたようにさまざまなモノが無造作に置かれている。中には墓石を思わせる石の彫刻や配管、工事現場で見られるような柵なども。その中にパフォーマンスする男女六人の俳優と観客が同時に居合わせる。

 岡田さんがキーワードとしたのは、金氏さんから聞かされた「半透明」という言葉だったという。舞台も客席もなく、モノと戯れるように動く俳優たちが半透明な存在となること。ならば、観客も半透明になって、モノや俳優という他者と向き合うことになるのかもしれない。

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 岡田さんが陸前高田市を訪れたのは二〇一七年。広大な土地が津波に備えて十二メートルもの高さにかさ上げされていた。「あまりに広い範囲で行われている光景に驚いた。しかも目の当たりにしながら、なお信じられない思いだった。行っている価値観は人間中心の尺度。こんなことやっていいのかと素直に疑問を持った」

作品について語る岡田利規さん(左)と金氏徹平さん

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 「チェルフィッチュ」で、演劇に新しいページを開いたとも称される岡田さん。「演劇という形式は、人間の人間による人間のためのものだった。それを疑うきっかけが陸前高田の光景。人間に向けたり、人間によるものではない演劇をやりたいと思い、いろいろな試みをしている」

 一方、舞台美術を担当する金氏さんは演劇への関心を「いつも作っている彫刻、平面などの美術との違いは、人間がいて、言葉があること。人間がいることで、モノや空間と新しい関係ができるのではないかと思っている」と語る。

 「映像演劇」は展示室内の壁に俳優の演技が映し出される映像インスタレーション。「彫刻演劇」では、カメラの前のモノの映像が映し出され、そのモノを動かして状況を変えるパフォーマンスが行われる。いずれの部屋でも、俳優、観客、物体、映像、音響、美術館空間の関係を揺さぶる試みが展開される。

     ◇     ◇     ◇

 それにしても、なぜ「消しゴム」なのか。21美の島敦彦館長は「消しゴムは何かを消す機能を持っているが、消しかすを集めれば元と同じ総量になる。山を削り土砂でかさ上げした土地や防波堤とよく似ている」と解説。「私たちは真っ白のキャンバスや原稿用紙をわざわざ汚して美術や文学を生み出している。消しゴムというのは奥深い絶妙のネーミング」と。

 担当した黒沢浩美学芸課長は「何が起きているのか分からない、パズルのような状況それ自体を楽しんでほしい。どこが始まりで、終わりかも分からないが、それでいい作り。時間をかけて居続けることが鑑賞のヒントかも」と。開場時間は午前十時〜午後五時。午前十一時〜午後四時にパフォーマンスがある。休館の十日を除き、十六日まで毎日上演。

 

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