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北陸文化

村上春樹さん イタリアで記念講演(下)  

【講演要旨】

物語で暗闇照らしたい

講演前に写真に納まる作家の村上春樹さん=10月、イタリア・アルバ近郊で((C)FondazioneBottariLattesfotoMurialdo、共同)

写真

 人が小説を書くという行為にはいくつかの重要な共通点を見つけられます。最も大事な要素は「物語に対する本来的な信頼感」だと思います。小説−すなわち物語を語ること−の起源ははるか昔、人間が洞窟に住んでいた古代までさかのぼります。目を閉じて、そうした時代に暮らしていると想像してみてください。

 太陽が沈むと大地は暗闇に覆われる。そこは鋭い牙や爪を持つ野獣がうろつく危険な場所です。仲間と一緒に洞窟に隠れ、身を寄せ合って長い夜を過ごします。そこには小さなたき火が燃えている。そんな中、誰かが物語を語り始めます。

 物語は、恐怖や空腹をたとえ一時的であるにせよ忘れさせてくれます。語り手はみんなの反応を見ながら、少しずつ物語の流れを変えていく。

 「それからどうなるの?」。人々が尋ねると、語り手は「続きは明日だ」と答えます。そしてみんなは眠りに就く。聞いたばかりの物語を静かに思い返しながら。

 恐らく、世界中の洞窟で同じことが行われていたのでしょう。

 それから何世紀もたち、小説という表現方法が出来上がってきました。現在では多くの人がデジタル画面で小説を読んでいます。しかし、そこで語られている物語は、本質的には洞窟の火の周りで語られた物語と同じ成り立ちのものです。私たち小説家は、洞窟の語り手の子孫なのです。

 暗闇は常に存在します。古代にあっても現代にあっても、暗闇を照らす物語という、ささやかなかがり火が変わることなく必要とされています。それは恐らく小説にしか提供することのできない種類の明かりです。

 僕が書いた物語が、たとえわずかであったとしても、世界のさまざまな所にある洞窟の片隅の暗闇を照らすことができるとしたら、そして、これからも照らし続けることができるなら、これに勝る喜びはありません。

 皆さん、ありがとう。

 

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