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北陸文化

【出版】まちの個性 とどめたい 藤井聡子さん(富山市)エッセー出版

「どこにでもあるどこかになる前に。」

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 富山の新たな街なかは、なんだか東京のどこかで見たような風景だった−。故郷・富山のユニークな場所や人物を、愛とギャグをちりばめて発信してきたライターのピストン藤井こと藤井聡子さん(40)=富山市=が十月、エッセー「どこにでもあるどこかになる前に。〜富山見聞逡巡(しゅんじゅん)記〜」(里山社)=写真=を出版した。コンパクトシティや北陸新幹線開業によって変わるまちを正面から見つめた。(押川恵理子)

 執筆のきっかけは、十年ぶりに戻った故郷でできた「居場所」の喪失だった。二〇一六年九月に休館したミニシアター「フォルツァ総曲輪(そうがわ)」。映画好きだけじゃなく、音楽ライブを催す人も、お茶を飲みに来るおばあちゃんも憩う。「混沌(こんとん)としていて、開かれた場所。いろんな人の受け皿だった」と藤井さん。

 フォルツァは、富山市が出資する第三セクターの運営だ。休館は急に告げられた。戸惑いと悔しさを会員制交流サイト(SNS)に投稿したら、本名で富山の現実を書かないかと、出版社「里山社」(川崎市)を営む友人の清田麻衣子さんから持ち掛けられた。

エッセーに登場する総曲輪ビリヤードの水野田鶴子さん(右)と語らう藤井聡子さん=富山市総曲輪で

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 自分が生きる地域について書くことは怖かったし、まちづくりや行政は敬遠していた。一方で「個人商店がなくなり、まちが画一化していくことにずっと違和感を持っていた」。

 かつて取材したそば屋の閉店に偶然立ち会った日の出来事も、わだかまりだった。「店の人は一生懸命、お客さんにサービスしているだけで、珍スポットとは思っていない。(話題として)消費しようとしている自分に罪悪感があった」

 まちや出会った人々について書くことは、自分自身と向き合う作業でもあった。富山市で生まれ育った藤井さんは、大阪の大学に進み、卒業後は「何かしら大物になる」という野望を持って上京。映画監督、編集者と目標を替えつつ、東京で働いた。二十九歳の時に帰郷。独身のアラサー女性にとって富山の居心地は良くなかった。「よそ者」だった藤井さんが、「中の人」になる物語でもある。

 個性を失いつつあるまちの一角で、藤井さんは唯一無二の人たちと出会う。地元に根付きながら、「旅の人」のような風通しの良さを持つ。その一人が、ビリヤード場「総曲輪ビリヤード」(富山市総曲輪)を営む水野田鶴子(たづこ)さん(89)。誰に対しても対等な彼女にひかれ、こうつづる。「戦前、戦中、戦後を生き延びた大和の旧い建物が消えても、田鶴子はそれに代わる“街の生けるシンボル”になっていくのかもしれない」

 まちの魅力とは何か。まちをつくるのは誰か。エッセーは問い掛ける。

 本は四六判、二百十六ページ、税別千九百円。

23日、金沢でトークイベント

 金沢市石引の書店「石引パブリック」で23日午後3時半から、藤井さんと、オヨヨ書林(金沢市)店主の山崎有邦さんによる出版記念トークイベント「北陸・文化系 Uターンの現在地」がある。入場料1500円、定員40人で要予約。問い合わせは石引パブリック=電076(256)5692=へ。

 

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