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北陸文化

【文学】泉鏡花文学賞 田中慎弥さん受賞スピーチ

「小説ははじき出された者のもの」

 第四十七回泉鏡花文学賞を受賞した田中慎弥さん(46)。九日、金沢市の市民芸術村であった授賞式でのスピーチでは「小説は、公とかマジョリティーからはじき出された者が書き、読むもの」と語り、今後も「公(おおやけ)の中でぽつんといる孤独な作家」として、書き続ける決意を示した。

泉鏡花文学賞を受賞し、スピーチする田中慎弥さん=金沢市民芸術村で

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 受賞を機に鏡花が亡くなった一九三九年に残した「縷紅新草(るこうしんそう)」を読んだという。「つかみ所がない小説。鏡花自身も自分が書いた幽霊話をそのまま地で行くように、晩年ぽくない不思議な小説を残してぱっと消えてしまった。鏡花という存在の、まわりをぐるぐる回っているのだけど、なかなかその中にいまだに切り込めていない」と語った。

 受賞作の連作短編集「ひよこ太陽」では、作家の日常を描く私小説の形式を借りながら、幻想や小学生時代の回想を交えて、作家にとって書くことの切実さを突き詰めた。自身の小説観を「信じてもらえないかもしれないが、自分には書きたいことは何にもない。戦争体験とか、病気や貧しさとか、宗教的背景とか、そういう抜き差しならない何かを持っていない空っぽな状態で書いている。(しかし)そのほうが言葉に対しては謙虚になれる」と語る。

 自治体が主催の賞を受賞することに「公というのは社会を形成する上で必要だが、小説はマジョリティーからはじき出された者が書き、読むものだと思う。公の中で、さも公の一人であるふりをしながらしかし、自分の居場所はここではないのになぜここにいるのだろうと思いながら、ひとりぼっちで書く、読むもの」と語った田中さん。最後は「きょうもホテルで仕事をした。明日も新幹線の中で仕事をします」と締めくくった。

 田中さんは、芥川賞の受賞決定の記者会見での「都知事閣下のためにもらっておいてやる」という発言で物議も醸した。授賞式では、当時から芥川賞選考委員で鏡花賞の選考にも当たった山田詠美さんが受賞作を「現実と非現実、事実と錯覚のずれを絶妙に描いた。私小説のように見える極めて巧妙なフィクション」と絶賛。「田中君、もらっておいてやって下さって、本当にありがとう」と語り、会場を沸かせた。 (松岡等)

 

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