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北陸文化

【美術】木版画 風間サチコさん個展 黒部市美術館

「ディスリンピック2680」(2018年、和紙、油性インク、縦242・4センチ、横640・5センチ) 撮影:宮島径 (C)Sachiko Kazama Courtesy of MUJIN−TO Production

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禍々(まがまが)しさ 社会を問う

 黒と白だけのダイナミックな木版画で、近現代の社会や歴史を捉え直す風間サチコさんの個展「風間サチコ展 コンクリート組曲」が黒部市美術館(富山県)で開かれている。黒部川の開発の歴史とワーグナーの楽劇の物語を重ねた新作や、大作「ディスリンピック2680」は、コンクリート建造物が象徴する近現代の日本社会の影をあぶり出す。 (松岡等)

 昨年秋と今年七月の二回のリサーチから生まれた作品が、黒部川の開発の歴史をワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の「序歌」にあたる「ラインの黄金(ラインゴルト)」と重ね合わせた六点の連作「クロベゴルト」だ。

 川底に沈む黒部水系最初の発電所の猫又取水口と、水難を招く伝説を持つライン川の妖精ローレライを重ねた作品「ローレライ」、地下にある黒部川第四発電所と小人の国である地底王国ニーベルハイムをイメージした「侏儒(しゅじゅ)の王国」など、風間さんは、黒部川開発の歴史から、コンクリートによる近代の土木技術が作り出す「NEW ORDER(新秩序)」を見た。

黒部川開発の歴史を読み解き、新たに連作「クロベゴルト」を制作した風間サチコさん=富山県黒部市の同市美術館で

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 黒部をテーマにしたもう一つの作品「ゲートピアno.3」は、黒部川第三発電所を建設した労働者たちを、エジプトの神殿の像に見立てた。モチーフはアスワン・ハイ・ダムの建設による水没を逃れたアブ・シンベル神殿。エジプトの王や王女の像を黒部の男女の作業員らに置き換えた図は、労働者たちへのオマージュでもある。

 しかし、像六体のうち一体があえて削り取られているのは、吉村昭も小説「高熱隧道(ずいどう)」で描いた過酷な工事の物語で、朝鮮人労働者が黙殺されてきたことにアイロニーで応じた。「書かれていないアナザーストーリーがある」。作品は壁を挟んで版画と版木を同時に展示し、近代がもたらす光と影を浮かび上がらせる。

 「ディスリンピック2680」は風間さんの近年の代表作だ。およそ縦二・四メートル、横六・四メートルの大画面に圧倒される。東京五輪に向けて建設中の新国立競技場を思わせるスタジアムで、中央の神殿のような塔に日の丸が翻る。

 シンメトリーな構図の画面左は「甲乙丙丁戊(こうおつへいていぼ)」による区分の「甲」の人々。男たちの行進は出陣学徒壮行会の隊列とナチス党国家勤労奉仕団だ。中央では「乙」のチームがマスゲームを演じる。右側は健全な社会とは遮断され、虐げられた「丙丁戊」の人々の世界。

 「ドイツ表現主義に影響を受けている」という風間さんが描いた、優生思想が支配するディストピアの祝祭。「2680」は皇紀二六八〇年のこと。国威発揚を目指しながら戦争で幻となった「東京五輪」の皇紀二六〇〇年から八十年後の来年が東京五輪・パラリンピックの年だ。

 「物語ごと彫り方を変える。今も刷りで使うのは小さなばれんとスプーン」という丹念な技術が、風間さんの作品に社会への批評性に説得力を与えている。「一人で閉じこもってやるからこそできるもう一つの世界がある。それが不思議と社会につながる」と風間さん。「木版画が持っている禍々(まがまが)しさ」が、現代の日本社会のいびつさに強烈な疑問を投げかけている。

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 十二月二十二日まで。月曜休み(ただし四日は開館、五、六日休み)。学芸員によるギャラリートークが十日と十二月八日にある。

 また、金沢21世紀美術館で開催中のコレクション展「現在地[1]」(十二月十九日まで)でも、住宅やマンションの広告と右肩上がりの棒グラフを写し取った風間さんの連作「逆算の風景」(一九九九年)を見ることができる。

 かざま・さちこ 1972年、東京都生まれ。武蔵野美術学園版画研究科修了。2006年に岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞、今年4月に第1回 Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)受賞。主な展覧会に「ディスリンピア2680」(18年、埼玉県東松山市・原爆の図丸木美術館)、「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」(17年、横浜美術館)など。作品集に『予感の帝国』(朝日出版社)がある。

 

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