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北陸文化

【出版】 強く生きる「お守り」に 荒井良二さん

3年ぶり絵本 小松で原画展 

自作を前に「生きる楽しさを伝えたい」と語る荒井良二さん=石川県小松市で

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 日本を代表する絵本作家の荒井良二さん(63)が九月、三年ぶりとなる絵本「きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ」をNHK出版から刊行した。主人公の少年は愛馬「あさやけ」と旅立ち、赤ちゃんの誕生など幸せな瞬間にいくつも出合う。前に進む力をくれる作品だ。石川県小松市で原画展を開催中の荒井さんに、表現に込めた思いを聞いた。(押川恵理子)

「きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ」

 「あさやけ」は森を街を軽やかに駆け、少年は出会う人々の喜ばしい出来事を共に祝う。少年と馬の躍動感や希望が、荒井さん独特の豊かな色彩とリズミカルな文章から伝わる。分断する世界をつなげ、現代社会の閉塞(へいそく)感を吹き飛ばすような力強さも感じる。

 「世界のあらゆるものに感謝する気持ち、その世界で一生懸命生きていく僕らの決意を絵本にできないかと考えた。『ありがとう』『おめでとう』と世界に向けて言いたかった」

 子どもの虐待や環境問題、各地で続く紛争…。現代は不安が尽きない。「世界では毎日、危険なこと、不安なことはあるだろうが、不安だけを子どもに伝えるのは大人の役割としてどうか。生きる楽しさ、人生の豊かさを伝えるべきだと年中思っている」

 愛馬「あさやけ」に乗って駆ける少年のように、五歳のころの荒井さんは「世界で一番俺が速いと感じていた」。山形県で生まれ育ち、「山も川も田んぼも畑もある。自然がたくさんある中で育ち、幸せだった」と振り返る。

絵本「きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ」から(c)荒井良二

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 「川に潜ったり、雪の中に埋まったり、その感覚を何度も思い起こす」。不安になったり、迷ったりする時、そんな思い出が自分を鼓舞してくれる。「強く生きるためのお守り」という。この絵本も人生の「お守り」のようだ。

 二〇一一年の東日本大震災後、「希望とか夢とか、以前は使わなかった言葉をよりダイレクトに伝えようという気持ちが強くなった」。当時、こうも思った。「過去を探ることがより良い未来を築くことになる。知恵とか、野性的な感覚とか、科学的な根拠じゃないことも大切」

 「気候変動や原発の問題を知っているのに、大人たちは止められない。戦争が起こっちゃうよという雰囲気も漂う。誰だって子どもを戦争に行かせたくない。環境の問題もこのまま人任せにしておいたら、そのつけを誰が受けるのか」

 今、未来に向かって変革すべきだと語る。「子どもたちには思考の自立をしてほしいな。『私はこう思う』と、意見を強く持ってもらいたい。それが文化の積み重ねにつながる」

 荒井さんは小学校に上がったばかりのころ、学校に通えなくなり、ご飯も食べられなくなった。理由はいまだに分からない。ただ絵だけは描けた。

 絵本は、かつて子どもだった自分に「これ、どう」と確かめながら作ってきた。「ちょっときざかもしれないけれどね。当時の自分に会いに行って、これ、喜ぶかなと」。少年のように笑った。

  ◇     ◇     ◇

 ▽A4変型判、32ページ。

 ▽1760円(税込み)。

 原画展は小松市の本陣記念美術館で11月4日まで。主催する空とこども絵本館では関連イベントを同時開催中。問い合わせは絵本館=電0761(23)0033=へ。

 あらい・りょうじ 日本大芸術学部卒。2005年、児童文学のノーベル賞と呼ばれるスウェーデンの「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を日本人で初めて受賞。「たいようオルガン」「あさになったので まどをあけますよ」など、手掛けた絵本は100冊以上に上る。

 

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