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北陸文化

共通点多く生涯の交流 室生犀星と吉田三郎 生誕130年 田端時代ともに

(上)1910(明治43)年ごろの同郷の幼友達(左から吉田三郎、室生犀星、田辺孝次、幸崎伊次郎)(C)室生犀星記念館(下)長野県軽井沢町にある犀星文学碑。吉田三郎が字彫した

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 ともに金沢市が生んだ詩人、作家・室生犀星と、野口英世の彫像などで知られる彫刻家・吉田三郎が、同じ小学校を出て、上京後も東京・田端で暮らし、生涯の交流があったことはあまり知られていない。生誕百三十年を迎えた二人の田端時代に焦点を当てながら、業績と生涯を振り返る展覧会が東京都北区の田端文士村記念館で開かれている。後に日本芸術院会員にもなる詩人・作家と彫刻家との交流とは−。 (松岡等)

 二人が生まれたのは一八八九(明治二十二)年。犀星の生家は金沢市裏千日町(当時)、三郎は長町でともに犀川近く。長町高等小学校で二人は出会う。後に三郎は「金沢の鮴(ごり)」と題した随筆にこう記している。

 少年時代は(略)室生犀星らと共にこの犀川の岸をよく歩いたものだ。(略)夏ともなれば褌(ふんどし)一つと云(い)う赤裸々の姿で雀躍(じゃくやく)としてよくゴリとりに行ったなつかしい想い出をもつている。

 犀星は十二歳で尋常小学校を中退し、金沢地方裁判所の接客係として働き始め、俳句の投稿から文学への道をスタートした。

 一方の三郎は石川県立工業高校へ進む。そこで教え、後に日本を代表する陶芸家となる板谷波山に私淑した。一九〇七(同四十)年に東京美術学校(現東京芸術大)に進学、波山が暮らす田端に下宿し、生涯の制作の拠点とした。

 文学を志す犀星は職を辞し一〇(同四十三)年に初めて上京。その後、上京と帰郷を繰り返す放浪時代を送るが、そんな犀星に手をさしのべたのが幼なじみの三郎で、一六(大正五)年に犀星も田端に居を定めた。二人はほぼ同時期に結婚するが、二人の妻はともに、金沢市新竪町尋常小学校の卒業生だ。

 互いがそれぞれの分野で頭角を現すのはその頃から。三郎は一九(同八)年に第一回帝展で特選を受賞。二六(同十五)年には審査員になり、帝展、新文展、日展で活躍し、日本を代表する彫刻家となっていく。

東京・田端文士村記念館「竹馬の友 犀星と三郎」展

田端の風物や北原白秋、萩原朔太郎らのことを記した随筆「田端村」の自筆原稿

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 犀星は萩原朔太郎とともに雑誌「感情」を創刊。田端を拠点にした感情詩社から最初の詩集「愛の詩集」や「抒情小曲集」を出版し、詩人として地歩を固めた。当時、田端に暮らした芥川龍之介とも親友となり、芥川、佐藤春夫の影響から小説も書き始めて「幼年時代」「性に眼覚める頃」などの名作が生まれた。

 関東大震災で一時、帰郷した犀星は四高の学生だった中野重治、窪川鶴次郎らの訪問を受けて後ろ盾になる。堀辰雄も加わって田端で雑誌「驢馬(ろば)」が創刊された。佐多稲子も同人となり、田端に文士が集うようになる。

 犀星と三郎の二人が疎遠になるのは、二七(昭和二)年、芥川の自殺に衝撃を受けた犀星が、直後に約十二年間暮らした田端を離れ、馬込に転居してから。犀星はその後、「杏っ子」「我が愛する詩人の伝記」など長編小説を次々に生み出していく。三郎もたくましい男性像や小動物などの彫刻で「写実の名手」とうたわれるように。二人はともに日本芸術院会員となる。

 再会は一九五〇(昭和二十五)年、三郎が芸術院会員に就くことが決まり最初の総会の控え室だった。再会の場面を犀星は「三郎さんのこと」と題した文章に残した。

 私はそれが40年くらい合わない吉田三郎であることを知ると、立つて彼の方に寄つて、ほかに何の障害も気取りもない、昨日も会つたようなくだけ方でらくに話をした。お互いの子供の事、田端の今昔、金沢の事、田辺孝次の話など、短い時間に肝じんの話の要点だけをつまんで話した。それだけで四十年の空白がうづめられたのである。

 五九(同三十四)年、犀星が「かげろふの日記遺文」で野間文芸賞を受賞し、賞金でそれまで建てることのなかった文学碑を妻の墓碑を兼ねて建てることを表明。六一(同三十六)年に碑を軽井沢町に建てる際、碑文の字を彫ったのが三郎だった。お礼のはがきが残る。当時、三郎は芸術家の彫像を彫ることが多く、犀星は三郎に「そのうち、僕のかほでもおもちゃに作ってください」と記した。しかし翌六二(同三十七)年三月十六日に三郎が死去。犀星も後を追うように十日後の二十六日に世を去り、犀星の像が彫られることはなかった。

  ◇     ◇     ◇

 田端文士村記念館での「竹馬の友 犀星と三郎〜ふるさと金沢から田端へ」では、二人の生い立ちから晩年までを作品や自筆原稿、書簡、二人の写真などを交えて詳しく紹介している。

 十四日には室生犀星、徳田秋声の両記念館の上田正行館長が「犀星詩の新しさと魅力」と題して講演した。展示は九月二十二日までで、無料。月曜休館。

 

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