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北陸文化

【岩津航の南フランス日記】 (2)ミディ運河 

ミディ運河沿いは散歩やジョギングする人も多い=トゥールーズで

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散歩道で触れる哲学

 トゥールーズの市街地はガロンヌ川とミディ運河に挟まれていて、なんとなく犀川と浅野川の間に旧市街がある金沢を思い出させる。

 十七世紀末に開通したミディ運河の建設は、ガロンヌ川を経由して地中海から大西洋まで抜ける物流経路を確保するための巨大事業だった。高低差を克服するための閘門(こうもん)はもちろんのこと、途中には運河が川をまたぐための橋まである。子どもの頃に見た『家なき子』というアニメで、主人公のレミが、運河を旅する金持ち一家の船に拾われてしばしの安息を得る場面があったが、あれがこのミディ運河だった。現在ではレジャー目的の利用がほとんどだ。

 先日までこのミディ運河の近くに住んでいたため、何度か河岸の遊歩道を散歩したことがある。夕方(サマータイムのせいで午後九時すぎまで明るい)にはジョギングする市民で混雑する。そういえば、以前に比べて自転車に乗っている人が格段に増えた気がする。健康志向と渋滞回避のためだろう。市営の貸自転車ステーションが街角ごとに整備されており、乗って行った先のステーションに自転車を返却すればよい手軽さから、多くの市民に利用されている。

 ある日、運河に並行して建造された十九世紀のドック(修理所)に入港するために、船が遊歩道を横断する場面に遭遇した。道に架かる橋がスライドして片側に収納され、空いた隙間ぎりぎりを船が通過するのを、歩行者も自転車乗りも、みんなのんびりと眺めている。

 橋が戻って歩き始めると、ふと、後ろから近づいてくる若者二人の会話が耳に入ってくる。「未来のことは考えるな、未来なんてないんだ」「そう、ぼくには未来がない、希望がない」「違う、未来というのは現在なんだ。この現在の延長が未来なんだから」−。こうした言い回しは、さすが理系でも哲学が必修教科の国である。確かに、今日だけが明日に続いている。運河の散歩道で行き合っただけの無関係な私まで、思わず深くうなずいてしまった。

 ◇     ◇     ◇

 岩津航・金沢大教授(仏文学、比較文学)の南仏トゥールーズ滞在記。第3土曜日に掲載します。

 

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