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北陸文化

【美術】社会見つめたデザイン 没後10年 粟津潔さん回顧展

《砂の女》(lafemmedusable,teshigawaraproduction)1977年

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金沢21美

 戦後日本を代表するグラフィックデザイナーで、一九五五年のデビューから作品を通して社会への問いかけを続けた粟津潔さんが亡くなって十年。過去最大規模の回顧展「粟津潔 デザインになにができるか」が金沢21世紀美術館で開かれている。展示では粟津作品に貫かれる民衆へのまなざしや「社会をいかにデザインするか」という視点を改めて浮かび上がらせている。九月二十三日まで。 (松岡等)

 粟津さんの父が石川県出身だったのが縁で、同館が約三千点の作品、資料の寄贈を受け、これまでにも「荒野のグラフィズム:粟津潔展」(二〇〇七年)を開くなどしてきた。今回はその後の調査、研究の集大成で、粟津さんの長男・ケンさんが企画・監修した。

《海を返せ》(原画)1955年

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 鉄条網ごしににらむ老漁民の鋭い目。一九五五年、デザイナーの登竜門である日本宣伝美術会賞を受賞し、デザイナーとしての出発点となったポスター「海を返せ」は、米軍の演習場となって九十九里浜を奪われた怒りをストレートにぶつけた作品だ。米軍基地が集中する沖縄の現状を想起させ、ケンさんは「メッセージは今も有効」と語る。

 原水爆禁止日本協議会が広島、長崎の原爆の悲惨を伝えるため海外向けに製作した冊子「FALLOUT(核爆発後の放射性降下物の意味)」(一九五七年)の表紙となった母子の絵、七〇年代に軍事政権下にあった韓国の民主化支援のポスターからも、粟津さんが社会へのメッセージを伝えるデザイナーだったことが分かる。

 展示のタイトルである「デザインになにができるか」は、六九年に出版された著書から。六四年の東京五輪、七〇年の大阪万博とデザインに注目が集まる中で、デザイナー自身がデザインを問い、デザインによって映画、演劇、文学などの文化を作者とともに作り出した時代でもあった。作品を粟津さん自身が深く読み解いて本質を表現した数々のポスターなどに加え、「砂の女」など勅使河原宏さんの映画で手がけた前衛的なタイトルカットの映像も見ることができる。

《グラフィズム3部作》のうちの1点1977年

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 サンパウロ・ビエンナーレに出品され、代表作ともいえる「グラフィズム3部作」(七七年)は、カメやツバキ、指紋や印象、「阿部定」の肖像写真などをコラージュした作品。美術批評家の針生一郎さんが「民衆のイコン」と呼んだこれらのモチーフ、複製を前提とするシルクスクリーンで製作した。グラフィズムとは「印刷主義」というの意味。「複製化した現代のメディアのなかに、再び、礼拝的な価値を見いだそうとしている」との言葉を残した粟津さんの考えが凝縮されている。

 展示では同時に、粟津さんの精神を今に引き継ぐ芸術活動として、埼玉県・秩父でセメント採掘のために破壊されている神の山・武甲山に焦点を当てた活動を展開する「秩父前衛派」と、七〇年代の韓国民主化運動の「武器」として地下で広がった韓国民衆版画についても紹介している。

粟津潔さん

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作品、資料3000点 データベース化

一部無料ダウンロード

 今回の企画展に合わせ、金沢21世紀美術館は約三千点ある粟津潔作品と資料をデータベース化して公開し、一部の画像については美術館ホームページから、無料でダウンロードし利用できるサービスを始めた。

 画像の無料利用は、「複製こそヒエラルキーのない『民衆のイコン』とした粟津さんの精神を引き継ぐ」意味合いから。会期末までに、著作権が絡まない数百点について提供できるようにする。粟津作品以外の画像開放の予定はない。

 著作権が切れ「パブリックドメイン」となった作品の無料利用は、米国のメトロポリタン美術館やオランダのアムステルダム国立美術館など海外では広がっている。日本国内では、足立区立郷土博物館(東京)など一部を除くと遅れていたが、愛知県美術館が昨年十一月からクリムトや伊藤若冲などを含めた開放を始め、注目を集めている。

【関連イベント】

 ◇6月8日 秩父前衛派トーク&パフォーマンス 午後2時から、笹久保伸さん(秩父前衛派)と椹木野衣さん(美術評論家、多摩美術大教授)のトーク▽午後3時半から、笹久保さんと音楽家・作曲家KOJI ASANOさんによるパフォーマンス。(ともに先着順。無料だが当日の展覧会入場券が必要)

 ◇7月6日 レクチャー「韓国民衆版画に魅せられて−梁民基と粟津潔が見たもの、描いた世界」。午後2時から、梁民基の文化運動を引き継ぐ梁説さんと朝鮮美術文化研究者の古川美佳さんがトーク。(無料、先着順)ほかに時間未定で、韓国のシンガー・ソングライターでエッセイ、漫画でも活躍のイ・ランさんのライブコンサート(7月3日)、華道家、アーティストの上野雄次さんによるパフォーマンス(8月3日)、ピアニスト崔善愛さんのコンサート(9月21日)を予定。(問)金沢21世紀美術館学芸課076(220)2801

 

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