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北陸文化

【岩津航の南フランス日記】 (1)オック語

通りの名前もフランス語(上)とオック語の両方で表記されている=トゥールーズ市内で(筆者撮影)

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息づく地方文化の象徴

 四月から、金沢大のサバティカル制度(在外研究)を利用して、しばし金沢を離れて、南フランスのトゥールーズに滞在することになった。煉瓦(れんが)造りの街並みから「バラ色の街」と称される古都で、その起源はローマ時代にまで遡(さかのぼ)る。エアバスの本社があることから航空産業の中心地であり、かつ十万人以上の学生を抱える学都でもある。フランス人の人気も高く、郊外も含めて人口が増え続け、活気にあふれているが、そのぶん不動産が値上がりし、私も家探しに苦労した。

 じつは、この町に住むのは二度目である。もう二十年近くも前、あと一年で通貨がユーロに切り替わるという頃、初めてフランス留学を果たしたのがトゥールーズだった。「星の王子さま」が印刷された五十フラン紙幣が、今となっては懐かしい。ちなみに、作者のサン=テグジュペリは、トゥールーズから南米への航路を開拓する任務を負って旅立つ職業パイロットだった。

 さて、地方都市に住むとよく分かるのが、パリだけがフランスではないということだ。それは東京だけが日本を代表するわけではないこととよく似ている。地方都市には、首都とは異なる建築様式や料理や言葉遣いなど、その土地に息づいた独自の歴史と文化がある。象徴的なのが、オック語の存在だ。フランス南西部で話されてきた言語であり、十二世紀にトゥルバドゥールと呼ばれる詩人たちがトゥールーズの宮廷でオック語の詩作を競ったのが、フランス文学史上最初の抒情詩(じょじょうし)の開花だと言われている。

 もっともオック語は、フランス革命以後の方言弾圧の時代を経て衰退し、生活言語として用いる人は少ない。にもかかわらず、地方文化を象徴するものとして、現在ではトゥールーズの通りのプレートや地下鉄の車内で流れる駅名のアナウンスに、フランス語とオック語の二言語が使用されている。これには、それなりの計画と予算が必要だったはずだ。地方文化が今なお感じられるのは、すぐれて政治的な選択の結果なのだということを痛感させられる。

     ◇

 南仏トゥールーズで一年間を過ごすことになった岩津航金沢大教授の滞在記。第三土曜日に掲載します。

 いわつ・こう 1975年大阪府生まれ。関西学院大卒、パリ第4大博士課程修了。博士(文学)。現在、金沢大人間社会研究域教授。専門はフランス文学、比較文学。4月から1年間、トゥールーズ大学ジャン・ジョレス校客員研究員。訳書にロマン・ガリ「夜明けの約束」、ジョゼフ・チャプスキ「収容所のプルースト」(ともに共和国)など。著書に「死の島からの旅−福永武彦と神話・芸術・文学」(世界思想社)など。

 

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