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北陸文化

【コミュニティシネマ 街中銀幕から】 場所が作らせた作品

 今月十一日に『ひかりの歌』の杉田協士監督と、『WildTour』の三宅唱監督がシネモンドで舞台あいさつした。『ひかりの歌』は、光をテーマに一般公募した短歌の中から選ばれた四首の作品をもとに、それぞれの抱える孤独の中で暮らしている四人の女性の日々を描いた作品。『WildTour』は、山口市にある山口情報芸術センター(YCAM)と三宅監督が恊働し、YCAMで実際に行われている植物図鑑をつくるワークショップをきっかけに、YCAMのスタッフや映画製作に興味のある中高生たちが出演し、一緒に脚本や演出を考えながら撮影を重ねた。

 杉田監督は、撮影に使われている場所は基本的に実際にある場所で、映画にしたい場所を見つけてから脚本を作っていったと語っていた。映画で登場するガソリンスタンドは、自分がかつて暮らしていた場所の近くにあり、そこが閉店するということを聞いてここで映画を作っておきたい、と思ったそう。出演しているガソリンスタンドのスタッフは、実際にそこで働いている人たちだという。

 一方、『WildTour』は、三宅監督がYCAMに約八カ月滞在し、参加している中高生たちとともに製作された。YCAMを中心とした自然豊かな環境で、iPhoneのカメラも使用し、時には参加者自らが撮影をしたカットもふんだんに盛り込まれている。作品は、実生活でも受験を控えた中学三年生たちが、今というこの瞬間を生きている姿が映しだされていく。山や海など山口のさまざまな場所を歩き回り、恋をする。フィクションとドキュメンタリーの境界を超えた、日記のような彼らの生の成長が記録されている。

 両作とも、物語のあるドラマ作品だが、実際の場所と、そこで日々を過ごしてきた人物が映っている作品だ。場所が作らせた作品、といってもいいかもしれない。

 今ある場所も時間も形を変えていく。常に過ぎさっていく今という現実の空間の中に、フィクションでしか表現できない瞬間を盛り込み製作された映画たちは、観客たちが日々の暮らしでただ受け流してきた瞬間に、寄り添っているように感じた。

 携帯電話にカメラ機能が搭載されてから、我々の身の回りの出来事を撮影するということがとても身近なことになった。それぞれのカメラの中には、特別だったり何げない日常の瞬間の記録がある。映画を見終えた後に街へ出ると、よく見知っている景色が親しみと深みを増して見えてくるようだった。

  (シネモンド支配人・上野克)

 

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