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北陸文化

【ジ・アーティスト】 切り絵作家 大橋忍さん

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小説を読んだり音楽を聴いたり

すると、色や線、配置が最初から全部、頭に浮かぶんです。

 一枚で完結するはずの切り絵が、小説の一節のように、前後の場面や行間を想像させる。例えば、ろうそくが灯(とも)る暗い川を、小舟に乗って進むヒツジ(作品「星摘む船」より)。どこから来て、何のために行くのか。意外なモチーフの組み合わせと配置が物語性を生んでいる。

 そのためかもしれない。アニメ映画「劇場版 夏目友人帳 〜うつせみに結ぶ〜」に作品を提供したり、漫画「不滅のあなたへ」の題字を手掛けたりと、物語作品にも活躍の場を広げている。文章そのものを取り込んだ切り絵もある。

 発想法も独特だ。「うさんくさい話だと思われるかもしれませんが…。『共感覚』って知ってますか」。特定の音や色、形、文字、数字などが結び付いて感じられる現象のことだ。大橋さんの場合、サ行の言葉は赤紫と青、ハ行は緑と黄緑につながる。ピアノと女性ボーカルの音楽なら、空気の塊と水がぶつかるイメージだ。「小説を読んだり音楽を聴いたりすると、色や線、配置が最初から全部、頭に浮かぶんです」。後は、それを忠実に形にする作業だという。

「星摘む舟」(2017年)。黒い画用紙を切り、手染めの和紙を貼っている

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 すべての作品に設定がある。冒頭のヒツジ、実は「三途(さんず)の川を渡っている」。涙を象徴した結晶、届かない手紙なども好んで使うモチーフだ。一見かわいいのに、どこか陰がある作風はなぜか。少し考え、こう答えた。「人間として自信がない、生きることにしがみついていないからでしょうか」

 中学三年で切り絵を始めたのは、アイデンティティーを模索した結果だった。幼い頃から絵を描くのが好きで、中学で美術部に入ったが、あるとき「私はうまくない、と気付いてしまった」。すると、好きな絵はコンプレックスに変わった。「でも、周りは『絵がうまい人』と見ている。それに応えなければ」

 葛藤の末、思い出したのが切り絵の絵本「モチモチの木」。高校受験直前の冬、自宅にあった父親のプラモデル用カッターナイフを初めて握った。要不要を見極め、そぎ落としていく切り絵。「いけると思った」

 今もこの時のカッターだけを使い続ける。「切り絵をやめようと思ったことはありません。一点一点きちんと作っていますが、いつも作りながら『次はこうしよう』と考える。それが終わらないんです」。捨てずに取ってある六千枚超の替え刃が、その歩みを証明している。

  (谷岡聖史)

◇おおはし・しのぶ 福島県生まれ。文星芸術大(宇都宮市)でデザインを専攻。同大に入学した2008年から、インターネットや個展などで切り絵を発表している。雑貨輸入会社社員との兼業を経て、15年から作家専業で活動。著書に作品集『美しい切り絵。』『美しい幻想切り絵。』(いずれもエムディエヌコーポレーション)など。

 「劇場版 夏目友人帳 〜うつせみに結ぶ〜」は全国で上映中。「不滅のあなたへ」(作・大今良時)は「週刊少年マガジン」(講談社)に連載中。単行本は既刊8巻。

 

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