出張投票所は有効か

浜松と一宮の投票率をみる

投票率の向上などを期待して2003年に導入された期日前投票は、いまでは投票者の3人に1人(37%、2017年総選挙)が利用している。通常は選挙管理委員会のある役所に出向いて投票する必要があるが、近年ではショピングセンターや駅前施設などに出張投票所を設ける自治体も増えている。期日前投票所の増設は、投票率を上げる効果があるのだろうか。

2019/6/1 中日新聞電子編集部

同じ投票所を使う有権者の集団を投票区という。全国には約47000区あり、投票率が公表される最小単位になっている。

投票区は、旧自治省の目安では有権者3000人以下、投票所までの距離が3000メートル以内となるように、自治体の公職選挙管理規定で定められている。投票所は、施設の都合などで選挙のたびに変更される。

3人に1人は徒歩圏外

投票区の姿、投票のイメージは、場所によって全く違う。浜松市を例に、概観してみよう。

浜松市は、2005年に旧浜松市、浜北市、天竜市と8町1村が合併してできた、面積全国2位の巨大自治体だ。官庁が集まる中区や製造業が集まる北区、過疎が進む天竜区など、日本の縮図になっている。

209(2017年時点)ある投票区のうち、有権者が7000人を超える区が10区あり、そのうち南区の2投票区は8000人を超えている。一方、100人以下の投票区も7区ある。いずれも天竜区だ。2019年には、過疎が進んで立会人が選出できなくなった第733投票区が廃止され、隣の投票区に統合されている。

国勢調査の人口分布データを使って、投票区ごとの投票所までの道のりを集計すると、3割強の住民にとって、投票所が1キロ以上離れていることがわかる。

中区や南区などの人口密集地域では、投票区の奥行きは数百メートルしかなく、投票所まで歩くことができる範囲に全員が住んでいる。他方、郊外では車で投票に来る人のために駐車場が必須になるため、必ずしも投票区の中央に投票所を設置できない場合もあり、距離を引き上げている。

投票所が遠いことは、有権者にとっての負担が増えることになるはずだ。ところが、データを見る限り、距離と投票率には関係がない。

投票は、都市部育ちの人にとっては歩いていくものとして、郊外育ちの人にとっては家族で車で出かけるものとして、住民の常識に組み込まれているのだろう。

期日前投票は距離しだい

一方、期日前投票の場合、投票所までの所要時間と投票率には、はっきりとした関係がある。投票所が近ければ期日前投票を利用し、遠くなるにつれて利用者が漸減するのだ。

関係があいまいな天竜区は、そもそも期日前の利用率が格段に高い。期日前投票は、便利な投票制度として受け入れられていると考えていいだろう。

しかし、当初の目論見だった投票率の向上は達成されたのだろうか。

投票率を上げる力はない

期日前投票所を設置するには、二重投票を防止するためのシステムを整備したり、会場を借りたりする費用、人件費がかかる。そのため、選挙管理委員会はもともと投票率が高い場所を選んで設置するかもしれない。その場合、距離と投票率に関連があったとしても、投票所新設の効果ではなく、もともと高かっただけだ。

浜松市東区は、2017年総選挙で平日2日間、区西部にあるショッピングセンター、イオンモール浜松市野に期日前投票所を開設した。利用者は3799人で有権者の3.6%だった。

もし、期日前投票所の新設によって投票率が向上するならば、2014年の総選挙と比較した時、イオンモール周辺では投票率が上向いているはずだ。

イオンモールに近いほど投票率が高かったようにも見えるが、統計的には偶然のいたずらにすぎない。距離に無関係でもこの程度の偏りは頻繁に起きる。そもそも、過半数の投票区が市全体の平均より低い。

期日前投票所の新設に投票率を上げる効果はほとんどない。期日前投票の高い利用率は、それがなくても日曜日に投票に行ったであろう人が、事前に投票した結果にすぎないといえるだろう。

若い世代の投票率が決定要因

近くに期日前投票所を設置しても投票に行く人が増えないのならば、何が投票率を下げているのだろうか。国勢調査の結果を投票区単位で集計し、投票率と比較すると、決定的な要因が浮かび上がる。

若い世代の棄権だ。

ここでは、愛知県一宮市のデータを紹介する。一宮市の投票区も、伝統的な商店街から名古屋のベッドタウンとして開発された新興住宅地までバリエーションに富んでいる。

就業形態や職種などの違いを考慮に入れても、「若い投票区」は投票率が断然低い。市選挙管理委員会が全数調査した大和西投票区では、30代の投票率は、60代と比べて20ポイント低く、20代は30ポイント低かった。

若い世代はもともと人口が少ないのに、投票率が半分しかない。それでは、政治が若者を軽視するのは当然だろう。

【データについて】

浜松市と愛知県一宮市の選挙管理委員会は、投票所単位の期日前投票者数、当日投票者数などのデータを公開し、投票率について詳細に分析している。

投票区は、投票所を運営する有権者の集団で、地理的な概念ではない。区域は市町村の公職選挙管理規定に定められているが、都市部では住所表示、農村部では町内会表示の場合が多い。町内会で定義されている場合、通常は地図には描けない。この記事の分析で用いた投票区地図の一部は、本紙が地形などから推定している。ただし、推定部分には人がほとんど住んでいないため、結果には影響しない。

人口分布データは、東京大学空間情報科学研究センターの西沢明特任教授が公開している100メートルメッシュ(網)を用いた。500mメッシュ単位で集計されている国勢調査のデータを、建物面積や都市地域土地利用細分データを用いて100メートル単位で按分したものだ。投票所への距離は、メッシュの中心からの距離を人口で加重平均した。

距離・ドライブ時間は、OpenStreetMapの道路データを元に、法定速度を適用させたネットワーク地図を作成して計算した。加減速や信号待ち時間は考慮していないため、ドライブ時間は比較のための目安である。