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【大相撲】

[北の富士コラム]徳勝龍の優勝は今でも信じられない…今場所も2、3日前まではそのうち負けると信じ込んでいた

2020年1月26日 20時53分

貴景勝(下)を寄り切りで破って初優勝を果たした徳勝龍

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 「ぼくのような者が優勝していいのでしょうか?」。この一言が今場所を物語っている。正代が2敗を守り、徳勝龍が敗れると優勝決定戦となる。立ち合い、先に仕切って待つ徳勝龍は、すんなり仕切りに入れない。おそらく迷いがあったのだろう。徳勝龍には立ち合いの変化がある。当然、警戒するだろう。

 軍配が返った。徳勝龍は鋭い踏み込みを見せて一歩、前に出る。貴景勝は明らかに立ち遅れた。いつもの当たりがない。突き放せず、やむなく左を差した。徳勝龍は待ってましたとばかり、右上手を引いた。左も入って胸が合う。願ってもない体勢となる。

 押し相撲の貴景勝だが、左四つでも相撲を取れる。幕尻力士とはいえ、徳勝龍も十分になると力は出る。大きな腹を生かし、ぐいぐい寄った。この機を逃してはならじとばかり全力で寄る。もう何も考えられない、ただ前に出るのみ。

 貴景勝は半身になって、寄りを防ごうとしたが、徳勝龍の寄り足は止まらない。まさに怒濤(どとう)の寄りである。貴景勝にはすでに残す気力も体勢もない。寄り倒して徳勝龍が勝った。奇跡が起きた瞬間である。

 十両と幕内を言ったり来たりの平凡な一平幕力士。今までも何ひとつ印象にも残らない。もっと言えば、いつ引退をするかを心配した方が良い力士である。そんな力士をいったい誰が優勝すると言えたでしょうか。

 皆さんも胸に手を当て、よく考えてください。徳勝龍の名が出てきますか。もしかして徳勝龍ってどんな人、どんな顔ぐらいなものだろう。かくいう小生も決して良い印象は持っていなかったです。印象にあるのは、大きな腹と大きな体の割には立ち合いの変化が多く、引き技の多い力士としか覚えていない。

 今場所も2、3日前まではそのうち負けると信じ込んでいたぐらいであります。だから今でもこの優勝は信じられないというのが本音である。

 しかし、貴景勝との一番で見方が大きく変わりました。左四つになると強いので、もう少し、見てみたい力士の1人になりました。33歳と決して若くはないだけに、優勝したからといって、これから大きく成長し、大関、横綱という話にはなりません。

 はっきり申し上げると、今までコツコツと地味に努力したご褒美に対して、奈良の神様と亡き伊東監督からの授かり物をいただいたと思っている。

 「人生あきらめないでコツコツとやること」。私もそう気付いていれば、もう少し頑張れたのにと少し思っています。何はともあれ、横綱休場、上位陣総崩れの場所であったが、思いがけない結末でささやかな感動が見られたのは救いであった。

 しかし喜んでばかりいられない現象である。白鵬が休場すると、誰が優勝するかわからない。皆にチャンスがある。幕尻と大関が戦って、看板の大関が負けた。横綱を目指す力士が平幕に敗れる。いったい番付って何だ! ということになりはしまいか。私には人が言うほど新旧交代が進んでいるとは思えない。去年も初めて優勝した力士が何人もいたが、白鵬不在の場所が多い。しっかりした、実力通りの横綱、大関がいて、それを倒し優勝を争うのが大相撲の本来の姿ではなかろうか。

 さあ、言いたいことは言ったし、最後の原稿を送ったら久しぶりに八角部屋でも行こうかしら。北勝富士も11勝したし、隠岐の海も勝ち越したので、お客さんが満席で俺の座る場所もないだろう。行きつけのすし屋がやっているので、一人で打ち上げでもやろうか。では、お休みなさい。

(元横綱)

 

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