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【スポーツ】

小出義雄「遺す言葉」第1回 未来を志向せよ夢を持とう

2019年7月18日 紙面から

ベルリンマラソンで優勝し、世界記録の2時間19分46秒の掲示板の前で喜ぶ高橋尚子=2001年9月30日、ベルリン市内で(鵜飼一徳撮影)

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 スティーブ・ジョブズ(米国)には共感を覚えるんだ。パソコンやインターネット、携帯電話などメディア界に革命を起こした。誰もが思いも寄らないような未来を想像し、その実現のために、寝食を惜しんで打ち込んだ。そして、現実にそうなって、今がある。

 過去や現実に満足し、止まっていたら、そこからは何も生まれない。僕は、Qちゃん(高橋尚子)に、この地球上で、最初に、2時間20分を切る女子マラソン選手にしてやるよと話し、現実にそうなった。2000年のQちゃんのシドニー五輪金メダルも、その翌年、ベルリンマラソンでつくった2時間19分46秒の世界新記録も、たまたま成し遂げられたものじゃない。子どもたちに夢を与え、その実現のために寝ないでも勉強するのが先生なんだよ。

 当時、Qちゃんが破るまでの世界記録は、ケニアのテグラ・ロルーペの2時間20分43秒だった。Qちゃんの記録は、1998年、猛暑のアジア大会(バンコク)で出した21分47秒。僕は考えた。これまでより、1キロを平均15秒速く走らせようと。15秒×40回=600秒。つまり、マラソンを10分も速く走らせようと、とんでもないことを考えたんだ(笑)。現実的ではないが、夢とはそういうものなんだ。夢を与えられたQちゃんも、これまでの常識をはるかに超えるトレーニングに食らい付いてきたね。

 本当のところ、僕が予想していたのは、ロルーペより2分以上も速い2時間18分32秒だった。レースの展開の仕方で記録は左右される。一騎打ちと見られていたロルーペは早くも5キロで離され、男子に交じって女子では一人旅になったQちゃんの記録は19分46秒だった。だが、地球上で最初に20分切りを果たす夢は実現した。未来を志向して、夢を持たなかったら出来なかったな。

       ◇     ◇

 しかし、日本人はどうしてこんなに弱くなったんだろう。男子のマラソンは、そのうち、ケニア選手が1時間58分ぐらいで行くよ。確かに日本も、設楽悠太君や大迫傑君らが日本記録をつくり、それに触発されるように活気づいてきた。とても喜ばしい。未来を見て、夢を持って、そのエネルギーで殻を破った結果で、それはたまたまではない。来年の東京五輪はそれなりに楽しみだね。だけど、そこで満足したら時代も、進歩も止まる。2時間切りの未来を見て、夢を持てと僕は言いたい。マラソンだけじゃないよ。もし、僕がラーメン屋になっていたら、日本一のラーメン屋を目指していたと思うよ。

2014年11月、東日本実業団対抗女子駅伝でユニバーサルエンターテインメントが3連覇。ゴール後、和久夢来(左)と話す小出代表(中西祥子撮影)

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 オリンピックで有森裕子に銀・銅、高橋尚子に金メダルを取らせ、さらに世界選手権では、鈴木博美に金、千葉真子に銅メダルを取らせて、小出義雄さんは去った。世界でもまれな実績を残した小出さんは何を考え、そして何を伝えたかったのか。本紙は、遺族に一人称での掲載の承諾を得て「遺す言葉」を短期集中連載する。

 

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