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【首都スポ】

[陸上]ママでも五輪! 陸上→ラグビー→陸上 寺田明日香は母でも強し

2019年9月18日 紙面から

娘の果緒ちゃんと笑顔で触れ合う寺田明日香=東京都内で(川村庸介撮影)

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 引退、結婚と出産、競技転向、そして復帰。6年間で人生の転機を多く経験しながら乗り越え、10年ぶりに日本代表に帰ってきた。陸上の女子100メートル障害で12秒97の日本記録を持つ寺田明日香(29)=パソナグループ=は「復帰して目指しているゴールはここではない」と、27日にドーハ(カタール)で開幕する世界選手権でさらなる高みを目指す。

 まな娘とじゃれ合う優しい母親の目が、ラインを1本またいでトラックのレーンに入った瞬間、高さ83・8センチのハードルに立ち向かい、飛び越えるアスリートの真剣なまなざしに変わる。

 寺田は子育てと競技の両立を「練習に集中できる度合いも練習の強度も上がっている。家に帰ると娘に癒やされるし、叱るときもあるけど、娘がいることで感情のメリハリもハッキリつけてコントロールできる」と自己分析する。

 かつて自らも挑み続け、そして19年間更新されなかった日本記録、すなわち「13秒の壁」を競技復帰からわずか9カ月で突破した。2000年に金沢イボンヌ(佐田建設)が出した13秒00を、1日の富士北麓ワールドトライアルで塗り替え、「前の陸上選手のときに12秒で走ることを目指していたので、9カ月で超えられたのはすごく大きかったし、スタッフ、チーム明日香のみんなが支えてくれた結果なので、すごくうれしく思う」と年月をかみしめながら振り返る。

 前の陸上選手−。当時も日本を代表するハードラーだった。日本選手権3連覇、2009年ベルリン世界選手権代表などの実績を持つ。だが、相次ぐケガなどを理由に13年に現役を引退した。そして翌14年に長女の果緒ちゃんを出産、16年のリオ五輪後には東京五輪出場を目指して7人制ラグビーに転向。翌17年には持ち味の健脚を買われ、日本代表練習生になるなど第2の人生を歩み始めていた。楕円(だえん)球の魅力に引き込まれ、芝生を駆ける日々。一方で限界も感じつつあったこともあり、18年12月に「母親として五輪に挑戦する姿を見せたい」と東京五輪まで2年を切った段階で陸上競技への復帰を決意した。

 トラックに戻ってからは19年4月の100メートル障害初戦で13秒43をマークすると1カ月後には一気に13秒19まで短縮。そこからは6月の日本選手権3位、7月に自己ベストに迫る13秒07、8月に日本タイ記録の13秒00、そして9月に日本新記録と駆け上がった。

 背景にはハードルの技術の改良もあったが、ラグビーの効果も実感している。「1つの競技だけに着目していると世界が狭くなる。ラグビーをやったときに無理やり止まる動作やサイドに振ること、人の動きを見て逃げることなどで、体の使い方や動かし方を考えるようになったし視野が広がった」と明かす。

 もちろん家族の存在も大きい。もう5歳になった果緒ちゃんは「きょうのママは速かった」と褒めてくれることもある一方、後方を走っている場合は「ママの足が遅いのが悪い」と容赦はないという。それでも「なかなか『足が遅い』と言ってくれる人はいないし、世界的に見ればその通りで私は足が遅い。彼女が突っ込んでくれるのでありがたい」と誰よりも厳しい“コーチ”が世界を気付かせてくれると笑う。

 そうして臨む10年ぶりの世界選手権。まな娘の言う通り、世界での立ち位置は自覚している。「12秒97ではまだまだ世界と戦うとは言えない立場にいるので、速い人たちの中でどれだけ冷静に自分のやりたい走りができるかがポイント。世界の舞台で自己ベストを更新する難しさは分かっている」と10年前の経験も踏まえて語る。

 一方で「走れなかった、走りにくい、暑いとか、マイナス面も出てくると思うが、そういうことを調整できるぐらいのずぶとさは持って(陸上競技に)帰ってきたと思っている。いろいろなことを楽しみに世界選手権を走りたい」とさまざまな経験をしてきた強みものぞかせる。

 当面の具体的な目標としては「東京五輪参加標準記録の12秒84」と明確な数字を掲げる。そしてその先は「12秒6で走りたい。そのためには足の速さも上げないといけない。100でも寺田明日香は強いんじゃないかと思ってもらえるぐらい。福島(千里)さんの日本記録11秒21にどこまで近づけるか」と五輪の決勝進出ラインとして12秒6とそのための走力強化を見据える。

 「12秒97はスタートライン、世界(と戦うため)の一歩どころか半歩ぐらい。私のゴールは来年のオリンピックでどこまで走れるか、自分の思うようにできるか」。母親として、アスリートとして世界の最高峰への挑戦、その第一歩をドーハで記す。 (川村庸介)

<寺田明日香(てらだ・あすか)> 1990(平成2)年1月14日生まれ、札幌市出身の29歳。168センチ、57キロ。小4で陸上を始め、北海道・恵庭北高では全国高校総体(インターハイ)女子100メートル障害3連覇、3年時には100メートル、400メートルリレーの3冠を達成。2008年に北海道ハイテクACに所属し、同年から日本選手権100メートル障害3連覇、10年アジア大会5位入賞などの実績を残す。引退、結婚、出産、ラグビー転向を経て18年12月から陸上に復帰した。

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