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【首都スポ】

[ヨット]海洋冒険家・白石康次郎 “海のW杯”に再挑戦

2019年6月6日 紙面から

2020年にヨットの単独無寄港無補給世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」に再挑戦する白石康次郎

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 令和でもヨットで世界一周−。海洋冒険家の白石康次郎(52)が2020年11月に開催される単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に挑む。平成時代に別レースなどで世界1周を3度達成したが、ヴァンデ・グローブ初挑戦だった16年大会では無念のリタイア。予測外、規格外の冒険家は平成から令和に元号が変わっても「世の中を明るく、元気にする」という信念を原動力に、世界一過酷なレースに挑戦する。 (占部哲也)

◆勝ち負けの前に死

 「僕は世の中を明るく、元気にしたいのが一番。世界一にはなりたい気持ちはもちろんある。でも優勝は世の中を明るくするための手段だから、目的ではないよね」

 日焼けした顔から白い歯が現れた。屈託のない笑み。レース=競技だが、大冒険は物差しが違う。

 「まずスポーツと違うのは、勝ち負けの前に生死がある。ここが大きく違う」

 勝ち負けを超越しているレース。だから、白石は「死」をも受け入れる。

 「死んだ後も、人を喜ばすことを考えてますよ。妻には『葬儀はしてね』と言ってある。自分がお礼を言えないから、代わりに言ってねと。あと、お墓も建ててくれと。自分も植村直己さんのお墓に行って血が沸き立った。この競技をやりたい若者もいると思う。だからお墓は必要。世の中を明るく、元気に。ちゃんと考えているでしょ」

 うん。うん。うなずくしかない。人生で出会ったことのない未知の人だ。前回大会は南アフリカの喜望峰沖でマストが折れ、無念のリタイア。だが、ここでもやはり信念はぶれなかった。

 「20年以上かかってやっとたどり着いた大会で…そりゃ、涙も枯れ果てるほど泣きましたよ。でもね。僕の目的は?『世の中が元気になる。明るくする』でしょ。勝とうが、負けようが目的は一つ。負けた時に何ができるかを考えた。見事な負けっぷりを見せるしかない。堂々と日本で船を見せようとね。それが僕の仕事だった」

 400キロのマストが折れつつも、自力で3日間かけて喜望峰(南アフリカ)に到着。日本に運び、四国や瀬戸内海を巡った。1年間のキャンペーン中に20年大会のメインスポンサーとなる工作機械大手「DMG森精機」の森雅彦社長と出会った。

 「みんな喜んでくれた。世界一周するヨットは日本には1台もないから。ヨットのF1が来たって感じ。そこで会った森さんが『次もやるか。やるなら新艇でやろうよ』と声を掛けてくれた。華々しい成績で帰ってきたわけじゃない。マストを折って、泣いて帰ってきた。でも、腐らないで堂々としていた。そうしたら世界トップレベルの資金がやってきた!」

 優勝が至上命題の“メガ”チームの予算は約30億円。今回は第2グループの規模だという。ちなみに、前回大会はクラウドファンディングを活用して3億8000万円を集めた。船艇は中古。マストも「世界3周目」だったという。

 「16年大会は6艇のマストが折れた。でも、共通点があったの。みんな中古だった! 面白いでしょ!! 『マストは新品がいい』って結論になった。新品は1本も折れないってね。でも1本3000万円もする。前回は整備して出る以外は選択肢はなかった」

◆普通の人とは違う

笑顔で話す白石=東京都中央区で(北田美和子撮影)

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 不思議な人だ。悲劇も喜劇に聞こえる。失敗しても、ただでは転ばない。そして、世界を3周しているのに「ヨットが下手」だという。船酔いもするというのだ。でも、ここでも不思議な説得力が…。

 「ゴルフの方がよっぽどうまい。ドライバーの最高飛距離が383ヤード。公式記録よ。(レースで)吐くのは最初の3日間。完全に酔いがなくなるまで1週間くらい。あと基本、寝ないから24時間苦しい。地獄。でもね、水産高校時代に『船酔いは恥ずかしいことじゃない』と教えられた。だけど、酔って仕事ができないのは船乗りとして失格。吐きながら仕事ができる。そこが普通の人と違う」

 でも、平成で世界最高峰の大会にたどり着き、令和で再挑戦。サッカー元日本代表FW三浦知良と同じ1967年生まれの52歳は言う。

◆資金集めも実力!!

 「自分の特長は物事を楽しめること。楽しいから長く続けられる。長く続けるから実力がついてくる。天才なら10年でできるかもしれない。でも、実力がないから時間をかけるしかない。お金も実力です。資金集めは人間界の大冒険。『おまえだったら何億か出してもいいよ』って人間にならないとね。人間界と自然界。地球全体を楽しむレース。それがヴァンデ・グローブかな」

 世界一過酷なレースなのに悲壮感は全くない。ワクワク…ドキドキ…。人気アニメ「ドラゴンボール」の主人公・孫悟空のようだ。

 「26歳で初めて世界一周した時の海図は『南太平洋のここはよく分かってない』って書いてあった。注意事項ってね。そこには島があるかもしれない! グーグルアースなんてなくて、未知の世界があった。今はそういう世界がなくなって世界一周のスピードレースができる時代になった。遊ぶ規模が、鎌倉から神奈川県になって、太平洋になって、世界一周になった。今度は最新のヨットを手に入れた。おもちゃがでかくなっただけ」

 時代、年齢、技術は変わっても原点は変わらない。「世の中を明るく、元気にしたい」。令和になっても、白石は大海から「あっ」と驚く大冒険を届けてくれそうだ。

<白石康次郎(しらいし・こうじろう)> 1967(昭和42)年5月8日生まれの52歳。神奈川県鎌倉市出身。94年にヨットによる単独無寄港無補給での世界一周を当時の史上最年少となる26歳で達成。2002〜03年に単独世界一周レース「アラウンド・アローン」クラスIIで4位。06年には同「ファイブ・オーシャンズ」クラスIで2位。16年に同「ヴァンデ・グローブ」にアジア人として初出場もリタイアした。

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<ヴァンデ・グローブ> フランスの「レ・サーブル・ドロンヌ」を発着点に、単独無寄港無補給で世界一周(約4万8000キロ)のタイムを競うレース。4年に1度開催される。1989年から2016年まで計8回大会で延べ166人が出場し、完走者は同じく88人。宇宙を経験した人数よりも少ないといい、世界一過酷なレースとして知られる。新艇で臨む白石は、予選に当たる指定4レースのうち、1レースでも完走すれば出場権を得る。

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