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【ラグビー】

[田村一博コラム]うな重と双眼鏡と白いシャツ… 決勝を制するには目に見えぬ力も必要

2019年10月29日 紙面から

「何の秘密もない。ベストメンバーを組んだ」と強調した南アフリカのエラスムス監督

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 夜に爪を切ったら親の死に目に会えない。

 幼い頃にそう言われて40年ほど守ったが、父の旅立ちは母から聞くことになった。だから、その後はゲン担ぎすらしなくなっていた。ラグビーW杯が始まるまでは。

 日本代表がアイルランドに勝ったときのシャツをサモア、スコットランド、南アフリカとの戦いの時にも着た。アイルランド戦は静岡スタジアムであったため、翌日は浜松でうなぎを食べた。それから、日本の試合の前後には同様に「うな重」を食べた。準々決勝の南ア戦、それまでと違う双眼鏡を使ったことをいまも後悔している。

 W杯は残り2戦。南アは27日の準決勝、ウェールズに競り勝ち、イングランドとの頂上決戦に駒を進めた。チームを率いるヨハン・エラスムス監督は毎試合、白いシャツを着ている。記者会見でそのことを聞かれると、「昨年から負けると服を変えてきました。最初は負けてばかりでたくさん変えなければいけなかったけど、今年はまだ(負けたのは)1回。決勝が終わるまで着続けられることを願っています」。

 同監督は分析力が優れていることで知られている。そんな人でも、準備をやり切った先で不確かなものにすがる。百戦錬磨だ。あまたの修羅場をくぐってきた。最高峰の戦いで頂点に立つには、実力以外のものも必要と知る。

 世界の強豪が4年の準備をかけて戦う大会だ。選手もコーチも極限の精神状態。いまの世の中、ピッチ上の戦術や情報戦では他との差をつけづらくなっている。ファイナルに勝ち進んだ2チーム間ならなおさらだ。実力差はほぼない。ラスト1試合。最後の数分。目に見えぬ力が勝敗を分ける。

 個人的にはエラスムス監督のシャツが話題となったその席上で、シヤ・コリシ主将が最後に南アが優勝した2007年大会の記憶を話したことが、チームに追い風を吹かす気がしている。

 127年の同国代表の歴史の中で初めて黒人主将となった28歳は、貧困家庭に生まれ、夢をかなえた。「2007年はまだ子どもでした。家にはテレビがなかった。あの決勝は居酒屋で見ていました」

 そんな話を聞いたら、11月2日の決勝当日、横浜の巨大スタジアムで観戦するファンも、酒場で観戦のおっさんたちも、南アの背番号6がゴールラインへ向かって走り出したら、無条件にイケッと叫んじゃうよ。 (ラグビーマガジン編集長)

 

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