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【Penペン草紙】

胸を張るべき世界11位にも自責の言葉 新谷仁美の競技者としての生き方

2019年10月4日 18時0分

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 世界の11位。その称号を得られる人間が日本にどれぐらいいて、その地位にいる人間はどんな感情を抱くのか。称賛され、胸をはっても何らおかしくない、むしろ自然だろう。だが陸上の世界選手権女子1万メートルで11位になった新谷仁美(31)=ナイキTOKYO TC=は違う。「ただただ、日本の恥だなと思った」。消え入りそうな声で自らを責めた。

 レースを見れば恥でも何でもない。圧倒的な力を持つケニア、エチオピア勢と渡り合い、メダル争いからこぼれても必死に入賞圏内をキープしようと7位のポジションで粘った。31分12秒99という記録は自己4番目。5年のブランクを経て復帰してからは最速タイムだ。最善を尽くして及ばなかった。その結果も内容も他人から見れば誇れる成果だ。

 そんな言葉、数字も新谷にとっては何の慰めにもならない。「メダルを取らなければ恥でしょ。だって過程なんか誰も見てないじゃないですか。頑張る姿は自分が決めることじゃない。この世界選手権は参加して意味がある大会じゃない。各国の超人が集まって欲望をぶつけ合って、それで誰が結果を取るかというところ。自分が他者だったら何も私に期待しない」。100かゼロ、メダルか否か。頭にあるのはそれだけだ。

 世間一般がメダルなどの目に見えて分かりやすい結果を望むのは当然だし、期待に応えるのも選手の務め。一方で、まずは日本国内で普通の人は視界にすら入れられないないピラミッドの頂点に登り詰め、さらに世界が求めるレベルに達して初めて立てる舞台。そこに至る過程に手抜きも恥ずべき取り組みもあるはずがない。アスリートが自ら勝ち取った権利を自分のため、楽しむために使おうと断罪されるいわれはないと個人的には思う。

 それでも新谷は結果を残せなかった自らを恥じ、嫌いと公言してはばからない陸上競技の長距離で己に厳しい試練を課し続ける。「それが仕事。それでお金をもらっているので。やれないなんていう言葉は一切私たちにはない」。新谷仁美という競技者であるために。(川村庸介)

 

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