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【スポーツ史 平成物語】

角界のレジェンド旭天鵬 2人の師匠に涙の恩返し

2019年2月17日 紙面から

2012年夏場所千秋楽 決定戦で初優勝を決めうれし涙の旭天鵬=両国国技館で

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第9部 大相撲編(5)

 大ベテランが相撲史を塗り替えた。2012(平成24)年夏場所で、37歳8カ月だった旭天鵬が初優勝。従来の記録を5歳以上も上回る年長初優勝記録に本人も、周囲も感激の涙を流した。その後も40歳まで土俵を務め、数々の記録を積み重ねた「角界のレジェンド」。現在は後進の指導にあたる友綱親方(44)が、歴史的な場所を振り返る。

 涙、涙の快挙だった。2012年夏場所千秋楽。西前頭7枚目の旭天鵬が、初の平幕同士の優勝決定戦となった一番で栃煌山をはたき込んだ。初優勝。土俵を下りる前から、こみ上げる涙を我慢できなかった。立ち見も出た館内の大歓声と拍手の中、花道の奥で待っていた、こちらも泣き顔だった付け人たちの輪に飛び込んでいった。

37歳8カ月で初優勝した2012年夏場所を振り返る友綱親方=東京都墨田区の友綱部屋で(志村拓撮影)

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 まさに記録ずくめだった。37歳8カ月の初優勝は、1909(明治42)年に優勝制度が制定されてから史上最年長。00(平成12)年春場所に32歳5カ月で初優勝した貴闘力の記録を大幅に上回った。初土俵から所要121場所、新入幕から86場所は、ともに史上最も遅い初賜杯。初優勝に限らなくても、年6場所制となった58(昭和33)年以降では元横綱千代の富士の35歳5カ月を大きく上回る最年長Vだった。

 「(入門から)20年分のうれし涙があふれたね。2人の師匠のため、という思いも力になった」

 特別な思いで駆け抜けた15日間だった。場所直前の4月、母国のモンゴルに足を運んでスカウトしてくれ、「日本のお父さん」と慕う前師匠の大島親方(元大関旭国)が定年退職。現役を退き、大島部屋を継ぐ選択肢もあった。

 しかし、春場所は横綱白鵬とも当たった東前頭3枚目と幕内上位の番付だっただけに、まだまだ自信はあった。選んだ道は、友綱部屋へ移籍して現役続行。新たな師匠として受け入れた友綱親方(元関脇魁輝)への感謝も含め、「まずは勝ち越し」と気合十分だった。

初優勝し、元大島親方(左)に水を付ける旭天鵬。中央は友綱親方=2012年5月20日

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 序盤戦は2勝3敗だったが、大きな節目が励みになった。6日目の白星で通算勝利史上10位(当時)だった元横綱貴乃花の794勝にリーチをかけると、その後も白星を並べて一気に抜き去った。終わってみれば、6日目から千秋楽の本割と優勝決定戦を加えて11連勝。白鵬が旗手を務めて前師匠をオープンカーに乗せた優勝パレードや、新旧の師匠への水付けなど一生忘れられない恩返しの瞬間が待っていた。

 最初で最後の賜杯は「角界のレジェンド」のニックネームをもたらしてくれた。「優勝してなかったら、引退は早かったんじゃないかな。頑張っても1年とか。場所でも巡業でも応援がびっくりするくらい増えて、気持ちが若返った。だから3年も頑張れた」としみじみ。幕内出場1470回は史上1位。14(平成26)年秋場所では40歳で幕内の土俵を務めた。これは、年6場所制では長い大相撲史上でも唯一だ。

 記録への向き合い方は、重圧とはまるで無縁。勝利数や出場回数など、歴代トップ10の力士名が記された一覧表に目を付けた。「ティッシュ箱に貼って、稽古場で四股を踏みながら目に焼き付けたんだよ。記者さんが記録のことを書いて、周りは盛り上がって。それが土俵に上がる楽しみにもなった」と笑顔で振り返る。

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 15年名古屋場所に負け越し、十両陥落が濃厚となった40歳10カ月の“伝説”は潔く土俵に別れを告げた。幕内在位99場所目。再入幕を果たせば元大関魁皇に続く3桁の大台だったが「十両に落ちたら辞めるというのは、緊張感を保つための自分と自分の約束だった。次の世代に譲る思いもあったね」。千秋楽の取組後の花道、涙と一緒に少しだけ残った未練を拭い去った。

 幕内99場所の間、けがによる休場はなかった。190センチの長身に対し、152〜3キロが基本。だからこそ、今年初場所で幕内力士の平均体重が過去最高の166.2キロとなったことを気にせずにはいられない。「けが、増えたよね。重くするのは勝つためだろうけど、動けないお相撲さんの先は短いよ」と低い声でつぶやいた。

 誰よりも多く、平成の幕内の土俵に上がったからこその警鐘だ。「お相撲さんにとって、元気で一番一番取り切ることが何より大事」。原点の思いを胸にしたレジェンドの声を、現役力士はどう聞くのか。もうすぐ、角界は新たな時代を迎える。 (志村拓)

幕内復帰を目指す関取最年長の安美錦(左)=2018年

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 現役では、関取最年長で関脇経験者の十両安美錦(40)が幕内復帰を目指して奮闘している。昨年夏場所以来の再入幕を果たせば、自身の持つ39歳6カ月という昭和以降の最年長入幕記録を更新する。

 先月の2019(平成31)年初場所は3勝12敗。全休場所を除き、十両では自己ワーストの星取りと苦しみ抜いた。2日目に初白星を挙げたが、そこから泥沼の11連敗。東十両3枚目ながら、残り2番の結果次第では関取の座が危ぶまれる状況まで追い込まれた。

 「寂しいけど稀勢の里、豪風の思いを勝手に力に変えてね」

 4日目には横綱が引退し、10日目には1歳下で関取では自身に次ぐ年長者だったライバルが十両の土俵を去った。残り2日間は「土俵に上がる以上、安美錦らしい相撲を取りたい」と去りゆく2人にささげる2連勝締め。十両残留を濃厚にした。

 平成を締めくくる春場所は、新十両だった2000年初場所から114場所続く関取在位への正念場となる。だが、史上8位の通算892勝を誇る大ベテランは「こんな状態でも取りたいと思うから不思議。なんで相撲を取るんだろうね」と慌てない。卓越した経験値で、ピンチを復権の舞台に変えてみせる。

 新元号で最初の場所となる夏場所の土俵に上がれば、昭和と平成を合わせて3つの元号で現役を経験することになる力士が一人だけいる。48歳で現役最年長の序二段・華吹(はなかぜ)だ。元横綱稀勢の里の荒磯親方や大関豪栄道らが生まれた1986(昭和61)年の春場所が初土俵。最高位は三段目ながら、“偉業”を達成すれば30年以上の力士人生で最大の勲章となりそうだ。

 ▼旭天鵬勝(きょくてんほう・まさる) 本名は太田勝。1974(昭和49)年9月13日生まれ、モンゴル・ナライハ出身の44歳。92年2月に旭鷲山らと初のモンゴル出身力士として当時の大島部屋に入門し、同年春場所で初土俵。96年春場所新十両、98年初場所新入幕。2005年に日本国籍を取得。太田姓は当時の師匠だった大島親方の本名から。15年名古屋場所を最後に現役を引退し、年寄「大島」を襲名。17年夏場所後に師匠の友綱親方と名跡を交換し、部屋も継いだ。通算成績は927勝(史上6位)944敗22休。幕内通算697勝は史上10位。敢闘賞7度。金星2個。

 

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