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朝夕刊

リニア JRとの協議、なぜ難航

◆湧水 最大10カ月戻らず

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 リニア中央新幹線計画が国の工事認可を受けて十七日で五年。静岡市葵区の南アルプストンネル工事を巡っては、静岡県とJRの協議が難航している。現状をまとめた。

 Q まずリニアとは

 A 車両の超電導磁石と地上のコイルとの間で発生する磁力で車両を浮かせて走る鉄道。最高時速五百キロで、東京と名古屋間を最速四十分で結び、東海道新幹線「のぞみ」より五十分も速いんだ。

 Q 静岡に利点あり?

 A 沿線七都県のうち静岡だけ駅はできない。JRは大阪までリニアが延伸すれば、県内の新幹線駅に停車する「こだま」や「ひかり」を大幅に増やせるというが、川勝平太知事は「デメリットしかない」と言っている。

 Q デメリットとは

 A 県内は静岡市最北の南アルプス一〇・七キロをトンネルが貫通する。南アは大井川の水源。工事で表流水や地下水が減ることが心配される。県中西部の六十二万人が使う大事な水だし、茶農家や造り酒屋などは「生きるために必要」と切実だ。貴重な動植物が絶滅にひんしたり、大量の残土が積まれ、自然環境が変化したりする恐れもある。

 Q 何が最大の問題か

 A JRは二〇一三年に大井川の流量は毎秒二トン減ると試算した。県側は「減った水はすべて川に戻して」と訴えている。JRは工事で湧き出た水(湧水)をポンプでくみ上げて導水路を使って川に戻すと説明するのだが。

 Q 具体的には

 A まず工事方法を説明するよ。最初に「斜坑」と呼ばれる地下へ降りるためのトンネルを掘る。次に地質調査を目的とした「先進坑」を掘り進め、最後にリニアが通る「本坑」の掘削に着手する。

 JRによると、戻し方には、湧水を先進坑に集め、滑り台の様に水を自然流下させて川に戻す「導水路トンネル」がある。大井川に沿って椹島(さわらじま)まで約十一キロの導水路が掘られる。二つ目は、先進坑や斜坑の横に五百から六百メートル間隔で水をためる「釜場」を設け、電動ポンプで釜場の水を持ち上げていく「ポンプアップ方式」だ。

 Q そうやって水を戻すと言っているのに、なぜ協議は難航?

 A 今のは工事が進んだ後や完成後の話。この夏の協議で、先進坑が貫通するまでの一定期間(最大十カ月)は山梨、長野県側に流出する湧水を静岡側に戻せないことをJRが明かし、県側が猛反発した。

 Q 協議が進展する見通しは

 A 八〜十月に計六回あった協議は平行線のまま。JRは二七年のリニア開業に向け早期の着工を望む立場の割に、工事の説明が丁寧、十分とは言い難い。協議は今後も続くが、地域住民が生活に影響が及ばないと安心し、県が着工を認めるような状況になるまでには時間を要しそう。

 Q 打開策はないの?

 A 国の動きが鍵。菅義偉官房長官は「開業予定に影響が及ばないよう必要な調整をする」と述べ、国土交通省は協議の「行司役」になると約束した。存在感を発揮する場面がいずれ出てくるのでは。

(広田和也、五十幡将之)

◆トンネル坑口 建設準備

作業員宿舎と坑口が造られる西俣には重機が置かれて準備が進む=静岡市葵区の大井川西俣で

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 リニア中央新幹線の着工を国が認可し、十七日で五年。県とJR東海の協議は難航し、いまだに着工できていない南アルプストンネル静岡工区(静岡市葵区)だが、一年ほど前から工事事務所や作業員宿舎の建設など準備工事は着々と進む。大井川沿いを上るようにして、山奥の工事予定地を訪ねた。

 静岡市の中心市街地から車を走らせること一時間半。市最北の集落、井川地区に着いた。道路脇の空き地に立つ「リニア工事関係車両休憩所」の看板が目に留まる。

 さらに一時間ほど走ると市が管理する林道東俣線の入り口だ。未舗装で落石も多いため、車両を乗り入れるには市の通行許可証が必要となる。市とJR東海はこの林道の改良に関する協定を今年七月に結んだ。リニア工事の車両が通行しやすいよう、二〇二二年度までに整備するという。

 相当な悪路だ。握りこぶし大の石がごろごろと転がり、段差や傾斜もある。道路脇ののり面は、所々に崩落した跡があり、崖側に設けられた白いガードレールはひしゃげている。何度か大型トラックとすれちがったが、車両一台分の道路幅しかないところもあり、その都度、広い道まで後退したり、してもらったりと何かと神経を使った。

資材が置かれ、建設準備が進む作業員宿舎予定地=静岡市葵区の椹島で

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 北へ進み続ける。南アルプスの登山客らが利用する「椹島(さわらじま)」のロッジが見えてきた。標高一、一〇〇メートル余。ここには工事の司令拠点となる事務所や作業員宿舎が建設される。

 事務所はすでに完成し、景観に配慮した茶色い二階建ての建物には明かりがついていた。宿舎の予定地はショベルカーが稼働中で、ガシャガシャとやたらと音が響く。それほど静かな場所である。

 さらに北進し、本体トンネルに向けて掘る作業用トンネルの坑口(開通後は乗客の非常口となる)を建設する「千石」へ。川を挟んだ反対側では作業員宿舎の一部が完成し、既に使われているが、近くへの立ち入りは禁じられている。

 川に沿って進むと、大井川と西俣川の合流地点に到達する。この辺りは水量も豊富で、水が勢いよく流れている。この先は関係車両しか通れないため、自転車で西俣川の奥を目指す。

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 しばらくすると右岸に開けた土地が見えてきた。標高は一、五〇〇メートルほど。木々が生い茂る斜面に「西俣斜坑 坑口位置」との立て看板がある。

 千石と同じく、坑口と宿舎が建設される予定だが、土地の造成以外はほぼ手つかずのようだ。地面には木の棒が何本も突き立てられ、「濁水処理施設」などと工事の目印であろう文字が書き込まれていた。

 四方を山に囲まれ、川のせせらぎと虫の声しか聞こえない。大自然を相手に前例のない難工事は、いつ始まるのだろうか。

(岸友里)

◆中下流域の住民 消えぬ不安

茶畑が広がる大井川の流域=島田市で

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 南アルプス・間ノ岳(標高三、一九〇メートル)を源とする大井川は、県中部を縦断するように百六十八キロを流れ、駿河湾に注ぐ。

 県によると、大井川の水を使う流域人口は六十二万人。茶園や水田など一万二千ヘクタールを潤し、製紙や自動車産業の工場などにも水を供給する。

 半世紀余前にも、流量が減る危機はあった。一九六一(昭和三十六)年に塩郷ダム(川根本町)が完成すると、下流では水枯れが発生。住民は立ち上がり、行政や政治家を巻き込み、中部電力に水を戻すことを認めさせた。「水返せ運動」と呼ばれ、住民運動の全国的なモデルとなった。運動が結実し、下流には毎秒五トン(夏期以外は三トン)の水が放流された。

 リニアの着工認可から五年。前進しない協議を、中下流域の住民たちはどんな目でみているのか。

 島田市内で酒蔵を営む松永孝広さん(43)は「すべての醸造工程に大井川の水を使っている」と酒蔵の生命線であることを強調する。着工には一定の理解を示しつつ「枯れ果てて無くなるわけではないと思うが、不安は当然ある」と話す。

 御前崎市茶業振興協議会の増田剛巳副会長(66)は「リニアのルート変更もできないだろうし、お金での補償も、どれだけ水が減るか分からず、現実的でない。落としどころが見えない」とすっきりしない。工事で水が減れば、果樹や野菜、米作りにも影響する。「県内を通過するだけのリニアにメリットは見当たらない。節水しなければならないような状況になれば、地域農業の死活問題になる」と強調した。

 牧之原市細江のパート池田麻衣子さん(41)は「開業が遅れたら(他地域への)影響も大きいのではないか。ただ静岡が不利な状況で、工事が始まってしまうような形では終わらないでほしい」と語った。

(考えるリニア着工取材班)

 

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